新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

7月9日 その2 英語の品格

2018-07-09 16:13:32 | コラム
英語の品格とは何かを考えよう:

1996年だったか、香港に市場調査を兼ねて観光に行った帰りの機内で、隣に座ったアメリカの大手包装材料メーカーの若き香港支店長(スタンフォード大学のMBAだった)と語り合った。その際に深い慮りもなく「クリントン大統領の南部訛りには好感を持てない」と言ってしまった。するとどうだろう。その支店長は「外国人の貴方がよくぞ言ってくれた。我々は決してあのような言葉遣いの大統領を誇りとは思ってはいない」と言って反応してきたのだった。私にも理解できる反応だが、「そこまで言うか」と、少し意外な感もあった。

同じ民主党のオバマ大統領の言葉遣いも決して支配階層のものではなかったと思う。と言うか、余り良い育ちとは思わせない点があった。一つだけ例を挙げておくと、例えば
 I think that we will be willing to take the risk.
のような文章を話す時に、彼は that で一旦 pauseを置くのである。これは良くないと思う。即ち、we will be以下は thatで始まるclauseであるのだから、I think で切るべきなのだ。

ところで、トランプ大統領である。彼は自分の支持層であるプーアホワイト以下の人たちを相手に語る時は意識しておられるのかどうか、やや品格を疑うような表現を使うし、とても支配階層の方とは思えない言葉を敢えて選んでおられるように感じさせる。しかし、公式の席などではアメリカ大統領に相応しい言葉使いで語るようで、明らかに使い分けしてておられるようだ。更に、お得意のTwitterでは、とても大統領とは思えない言葉を平気で使っておられる気もする。率直に言えば、品格には気を遣っておられないようだということ。

言葉の品格:
私は品格とは「常識的に見て汚い言葉を使った表現や、文法的に誤りがある表現を使った文章を書くかまたは話す事であり、さらに話す時に英語独特の連結発音(=liaison)が出来ていないこと」なのであると信じている。即ち、「Englishを良く勉強して文法を間違えることがなく、下品な表現や言葉とはどのようなものかを弁えよ」という意味でもある。中でも注意すべきは「汚い言葉」と訳されている“swearword”を覚えて使ってしまうことである。これは良く注意して絶対に避けねばならないのだ。

私は我が国の学校教育の英語の問題点は「英語にはswearwordのような言葉があり、それを使っているのはどの階層に属する人たちであり、そういう言葉を絶対に使ってはならないと教えていないことだ」と認識している。かく申す私も、1992年8月までは、swearword使うことがどれほど良くない事であり、且つ自分から下層階級に属していると告白するのと同じである」とは明確に承知していなかった。別な視点から論じれば、一定以上の階層では、swearwordを使うことが厳格に禁じられているのだ。

承知しておくべき事は「これは屡々”slang”と混同されているが、全く別な範疇にある言葉だ」という点だ。その例を少しだけ挙げておけば、“hell”であるとか”God damn it.”や“Shit.”や、”Oh, my God.”といった単語とphraseである。そういう種類の表現を使っただけでも「下品な奴」と蔑まれる言葉であることが、我が国の教育では生徒にも学生にも一般人にも知らしめていないようだ。なお、”slang”は「隠語」や「符丁」の類いを指し、swearwordとは明らかに別物であることは、既に別な機会に何度も指摘してきた。


swearword以外の品格に欠けた言葉遣いの例も挙げておこう。それは、我が国ではかなり広く知れ渡っている「私も」という意味で気軽に使われている“Me, too.”である。これの何処がおかしいのかと言えば、“me”は目的格であるから主語に使うのは不適切であり、正しくは“I”であるべきだという文法上の誤りだ。だが、この形でかなり広まってしまったし #me too などというのも最近は別な意味で知れ渡っている。私が嘗て「Me too.甚目だ」と否定したところ、文科省OBの方が「ライシャワー大使も使っておられたから問題ない」と猛烈に反論されて困ったことがあった。私的な場では大使といえども使われることはあると思うのだ。

そこで、「長年親しくしているニューヨーク州出身で夫婦ともMBAである典型的なアッパーミドルの極めて厳格な家庭での会話の例を挙げよう。奥方が「今日ある会合で友人の誰それさんが“Me, too.”と言われたのには驚いた」と言われた。それを聞いたご主人が“そうか、彼はそういう表現を使ったのか”と驚いて見せたのだった。ご主人は会社を引退後に大学院大学の教授に就任された方で、奥方は労務関係のコンサルタント事務所を開いておられた。アメリカの支配階層では、このような言葉についてはこのように極めて厳格なのだと知って欲しい。追加で申し上げておけば、私は社内でついウッカリswearwordを使って、副社長に別室に呼びだされ「我が社の社員たる者、二度とそういう言葉を使うな」と叱責されたものだった。これがアメリカの支配階層の会社の言葉遣いの感覚である。

ところが、「アメリカにはswearwordがあり、下層階級が好んで使う言葉だ」と知らずに行くと、swearwordが何かを強調したい時などに便利に使えるし、そういう言葉を多用する連中に出会うことも多いのだろう。だから、つい「これこそがアメリカ英語で格好が良いのだ」と誤解して覚えてしまった上で、嬉々として使ってしまうものなのだ。その良い例(悪い例?)を挙げておくと、「沢尻エリカの“Oh, shit!”」がある。

それは、彼女が語学研修と称してアメリカに渡り、帰国した際に成田空港で記者たちに追いかけられてハンドバッグを落として思わず?叫んだのが、”Oh, shit!“だった。思うに、アメリカで彼女が(何も彼女だけに限定しなくても良いと思うが)接触した階層には、日常的にこういう言葉を使い、文法などを無視した英語を話す連中が多かったのだろうと直ぐに解る。尤も、支配階層の人たちに会えるような何の伝手もなくアメリカに行けば、どうしてもそういう連中と付き合う結果になってしまうものだ。

私はアメリカで支配階層に属する者たちは精々全体の5%程度だと思っているから、そう滅多に会えることはないとすら考えている。



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