誘拐した不倫相手の子と逃亡生活を送る女の日々と誘拐された子のその後の2章からなる物語。
野々宮希和子は妻子ある秋山丈博と不倫関係にあり堕胎の経験を持つ。生後半年の丈博の子の恵理菜を誘拐した希和子は逃亡する。逃亡先は東京の友人宅、名古屋の再開発地区に居座る老婆宅、奈良の怪しげな新興宗教団体エンジェルホーム、小豆島のラブホテル従業員アパート、素麺屋に紹介された離れ。誰にも事情は伝えず、警察の姿に怯えながらも薫と名づけた恵理菜と慎ましやかに暮らした4年。第1章の逃亡劇は小豆島からフェリーに乗るところでついに幕を閉じる。そして、大学生となった恵理菜は誘拐犯の希和子と同じ境遇を送っていたのだった・・・
誘拐した女、誘拐された子の母、誘拐された子、そして逃亡先の女、それぞれの「母性」をめぐる物語。どうしても犯人・希和子に肩入れして読んでしまう。子育てをしたことのない希和子が逃亡の日々の中で「母」になって行く姿がたくましく、小豆島での穏やかな日々が微笑ましかった。小豆島に向かうフェリー乗り場で20歳の「薫」と希和子がすれ違うシーンには涙が出た。