8月10日 編集手帳
壮年のシナリオライターは、
12歳の時に死別した両親と出会い、
心安 らぐ日々を過ごす。
やがて別れの時が来て、
息子は自分は良い夫でも父でもなく、
ろくな仕事もしてこなかった、
と打ち明ける。
だが、
両親は優しく声をかけた。
「あんたをね
自慢に思ってるよ」
「そうとも。
自分をいじめることはねえ。
手前で手前を大事にしなくて、
誰が大事にするもんか」。
山田太一氏の小説 『異人たちとの夏』(新潮文庫)は、あの世の両親に、
子どもが生きる力をもらう物語である。
全国の多くの地域でお盆を迎える。
お墓参りをして、
ご先祖様に近況や悩み事などを報告し、
自分自身を見つめ直す人も少なくないだろう。
戦後70年の節目のこの夏は、
平和のありがたさをかみしめ、
豊かな日本を築き上げた先人たちに感謝する機会ともしたい。
米国の作家ウィリアム・ケント・クルーガー氏の小説『ありふれた祈り』(ハヤカワ・ミステリ)に、
生きている我々と死者に関する言葉がある。
〈違いはひと息分もない。
最後の息を吐けばまた一緒になれる〉。
折に触れて、
自らの死生観と向き合う。
そういう季節である。