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韓国“汚職撲滅法”の波紋

2016-09-12 07:15:00 | 報道/ニュース

8月29日 キャッチ!


ここ数年 韓国では政治家や公務員の汚職が相次いで明るみとなり
大きな社会問題となっている。
これに対して韓国政府は汚職を取り締まる思い切った法律の導入に踏み切ることにした。
その法律は9月22日に施行されるが
飲食店での接待も取り締まりの対象となる。
いわゆるノミニケーションを大切にする韓国で
果たして受け入れられるのか。

ソウル中心部の韓国伝統料理店。
接待などで利用するビジネスマンでにぎわっている。
長時間煮込んで手間暇かけた肉料理。
色とりどりのキムチや野菜。
おいしい料理と酒を囲んで商談も進む。
しかしこの何気ない風景も
9月28日からは一変することになる。
(韓国KBS 7月28日)
「国民の日常生活まで刑事罰の対象になると心配されます。」
接待する相手が公務員だと処罰されることになったのである。
(利用客)
「法的に問題になるのなら公務員の友人とも会いづらくなる。」
「飲食店は当然 打撃を受けるでしょう。」
韓国社会では当然のように行われてきた公務員への接待。
しかし時として接待がエスカレート。
巨額の金銭がからみ汚職事件へ発展するケースが
ここ数年 メディアで取り上げられている。
韓国の汚職の広がりを示すものとして
ドイツのNGOが世界各国の政治家や公務員を調査した結果がある。
今年1月に発表した
2015年の各国の清潔度ランキングによると
OECD経済協力開発機構34カ国のうち韓国は27位と低い水準である。
国民から汚職への不満が高まるなか
新法制定の直接的なきっかけとなったのが
2011年の汚職事件である。
女性検事が不倫関係にあった弁護士から捜査に関する依頼を受け
見返りに高級乗用車を送ったとして起訴された。
しかし「高級乗用車は恋人へのプレゼント」だとして無罪判決を受けた。
これに対し国民からは
見返りに関係なく
職務に関係のある相手から贈り物を受け取っただけで処罰するべきだ
とする声が噴出。
この世論に応えたのが新たな法律の制定である。
法律の名前は
「不正な依頼 および 金品授受の禁止 に関する法律」。
2015年3月に成立した。
法律の施行に尽力した最高裁判所元判事 キム・ヨンラン氏の名前をとって
“キム・ヨンラン法”と呼ばれている。
キム・ヨンラン法は公務員に対する利益供与を制限するもので
金銭などを贈る場合 約9,000円
贈答品 約4,500円
接待の場合は1回の飲食1人あたり 約2,700円以上
禁止である。
贈る側も贈られた側も見返りの有る無しにかかわらず
双方が刑事罰の対象になる。
さらに処罰対象者も新法制定の過程で拡大した。
公務員だけでなく
私立学校の教員
社会的な影響力を持つメディア関係者とその配偶者まで広がり
対象者は韓国国内で400万人にのぼるとされている。
「韓国社会は接待や贈答に寛容です。
 しかし法律で処罰されるとわかると
 今後は控えるのではないかな。」
「汚職がなくなれは勧告は能力や成果主義になるでしょう。」
一方 新法の影響を予想して
約60年の歴史を持つ老舗の韓国伝統料理店はついに看板を下ろした。
この店の客の半分が公務員だった。
改装して1杯1,000円のベトナム・フォーの店に生まれ変わる。
(料理店経営者)
「この法律で打撃を受ける店は多いでしょう。
 閉店に自責の念もあるし
 この先のことが心配です。」
逆に新法の施行をこれまでに無いチャンスだと捉えている人たちがいる。
(j“不正摘発者”養成塾 塾長)
「ちょっと頭を使えば大きく稼げるのが新法の長所です。
 政府も奨励しています。
 不正を暴く皆さんは愛国者です。」
国民はだれでも不正を見つけて行政に報告すると
最大で1,800円の報奨金を受け取ることが出来るのである。
就職難の韓国で学歴や経験に関係なく稼げるとして
報奨金獲得のノウハウを学ぼうと講習会に多くの人たちが参加した。
不正の申告に重要なのは“証拠”。
隠しカメラで動かぬ証拠を押さえる。
この日は実習のためソウル市内の葬儀場に向かった。
新法では仮にお供えや香典であっても9,000円以上は処罰の対象である。
癒着している企業からの花が無いか
デザインなどからメーカーを特定し価格を確認する。
それだけではない。
芳名録を撮影し誰が来たのがをチェックする。
こうした撮影方法で受け付け台にある香典の額が書かれたノートの撮影もねらう。
(受講生)
「警察はすべてを監視できないので
 市民が活躍して公務員を正すのです。」
しかしこの制度により行き過ぎた監視社会になりかねない
と専門家は指摘する。
(トングク大学 キム・サンギョム教授)
「新法の目的は公の利益を求めるものだが
 私利私欲のために使われると
 国民の間の相互不信が増大しかねない。」

意外にも多くの韓国国民が新法に賛成している。
最近の世論調査でも
賛成が59,3%
厳しすぎるが30%と
賛成が大きく上回っている。
韓国で生活してみると
お酒を飲んで食事をしながら人間関係を構築する
いわゆるノミニケーションを日本以上に大切にしていることが分かる。
また一般的に飲食の会計を割りかんにするという習慣は無い。
おごる・おごられるは当たり前で
公務員に対する接待もある程度は見過ごされてきた。
ただ豪勢な接待や多額の金銭の見返りに便宜を図る汚職が相次ぎ
さすがに接待に寛大な韓国社会も怒りをあらわにするようになり
制限すべきだという世論の流れになった。
かつてない厳しい法律を作った以上
厳守させられなければ行政の責任が問われる。
違反者を摘発するのは本来警察など行政の仕事だが
新法の対象者が400万人と膨大で行政だけではカバーしきれない。
そこで市民1人1人の摘発に期待することにしたわけだが
モチベーションを高める報奨金を設定して
行政がカバーできない部分を補ってもらうことにしたのである。
厳しく取り締まろうとするとかえって公務員が委縮し
最低限の与えられた仕事しかできなるという懸念もある。
さらに経済的な打撃も懸念されている。
飲食業などのサービス業や流通業などで消費が落ち込むことが予想されているが
韓国企画財政相の長官はある研究機関の調査結果を引用しながら
“韓国経済への損失は11兆ウォン(日本円で約1兆円)ほどにのぼる”
と指摘している。
法律の施行をきっかけに汚職を減らすことが出来るのか
新法が施行される9月22日以降の韓国社会には
大きな波紋が予想される。



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