9月7日 編集手帳
マドレーヌを紅茶にひたして口に含んだとき、
遠い幼年期の記憶が隅々までよみがえる。
全編を読みおおせたことのない身で口幅ったいが、
フランスの作家マルセル・プルーストの長い長い物語『失われた時を求めて』である。
当方が口にしていたのは卵かけご飯と麦茶だが、
記憶が突然よみがえる感触をささやかながら味わった。
3日前、
朝刊をひらいたときである。
殺風景な学生寮の一室。
よく通った定食屋のテーブル。
理髪店の待合席…。
ファンは皆それぞれに“両さん”と過ごした時間を、
場所を懐かしく思い出しているだろう。
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が終わるという。
型破りな警察官・両津勘吉を主人公に、
秋本治さんが40年間にわたって「週刊少年ジャンプ」に連載してきた人気ギャグ漫画である。漫画誌にはとんとご無沙汰の身だが、
青春時代の古なじみであるあの愛すべき、
一本につながった太い眉に会えないと思うと、
やはりさみしいものがある。
17日発売の号が見納めという。
〈月光や遠のく人を銀色に〉(星野立子)。
飛び切り明るい人の別れにふさわしく、
その夜は満月である。