8月31日 編集手帳
この時期はいつものことだが、
駅に向かう道で一つか二つセミの亡骸(なきがら)を目にする。
〈こゑつかひ切つたる蝉(せみ)か地をあるく〉(濱田俊輔)。
声を使い切り、
地を這(は)う 力も尽きたのだろう。
アスファルトに置いておくのは気の毒で、
そばに木があれば根もとに移してやることにしている。
終戦の日や原爆忌に限らず、
虫ひとつまでが人を感傷に誘う夏は“いのちの季節”かも知れない。
それなのに、
である。
今年の梅雨は7月下旬、
相模原市の障害者施設で起きた惨劇とともに明けた。
8月は、
埼玉県東松山市の事件とともに終わろうとしている。
少年(16)の遺体が河川敷で見つかり、
14~17歳の少年5人が殺人容疑で逮捕された。
電話やメールでの呼び出しに被害者が居留守を使ったことなどに腹を立てての犯行と報じられている。
川柳作家の時実(ときざね)新子さんに一句がある。
〈死ぬためにただ死ぬために蝉生まれ〉。
小さな虫の、
はかない命をいとおしむまなざしが優しい。
ましてや人間である。
生きるために、
ただ生き生きと生きるために生まれてきた人間である。
殴られ、
アザだらけの全裸で溺死した君たちの仲間は。