9月1日 キャッチ!
イタリア北西部 地中海沿いに広がるチンクエテッレ(5つの土地)。
5つの集落が小さな入り江に点在。
青い海に映えるカラフルな家並みが特徴的である。
19世紀後半に鉄道が開通するまでは
船でしかアクセスできなかったこの地域。
古くから芸術家たちに愛され
特産のワインはその希少さから重宝がられたという。
チンクエテッレは1997年にユネスコ世界遺産に登録された。
しかし1000年以上にわたって続いてきた素朴なたたずまいが
いま異変に見舞われている。
集落の1つ
人口300万人ほどのマナローラ地区。
毎朝 観光客が大挙して押し寄せる。
町のメインストリートは大勢の観光客で占拠されている状態である。
港から細い路地まで
あっという間に人であふれかえってしまう。
このような事態になったのは
近年 近くの町の大きな港に
多い時で6,000人を乗せた大型クルーズ船が寄港し始めたからである。
チンクエテッレを訪れた観光客の数は
今年7月までで去年より20%増加。
地元住民の生活にも大きな影響が出ている。
アレッサンドロ・クロバーラさんは先祖代々のブドウ畑を引き継いで
10年前からワインを生産している。
「以前は住民が家族みたいだったが
それが変わった。
今は皆が憩う場所さえないね。」
マナローラ地区の中心部にあるレストランの経営者 モニカ・アンドレオッティさん。
店はもともと住民の大切な憩いの場だったが
今は朝から夜まで観光客の対応に追われている。
(レストラン経営者 モニカ・アンドレオッティさん)
「忙しくて地元の人の相手もできません。
ゆとりがあった頃が懐かしいです。」
増加した観光客によって
昔ながらの生活ができなくなったマナドーラの人々。
大切にしてきた住民同士のつながりも保ちにくくなっている。
こうした状況になったからこそ
地元の人たちがより大切にしている行事がある。
毎年8月に行われる祭り「聖ロレンツォの日」である。
夜に始まる祭りに向けて
集落の老若男女が自ら集い
準備にいそしむ。
町の通りに飾るのは手作りの燈籠。
作業する住民の中にモニカさんの姿があった。
(レストラン経営者 モニカ・アンドレオッティさん)
「この祭りは観光ではなく住民のためのものです。
だから子どもから老人まで住民全員が手伝うのです。」
日が落ちると祭りの始まりである。
山の手の教会から聖人の像につき従う行進が
港に向けて町中をゆっくり進む。
行進とともに歩く人や
道路の脇で見守る人。
この日のために帰郷する人もいるという。
元々は宗教色の濃いこの行事。
今では地元の絆を確かめる機会になっている。
行進が店に差し掛かると
接客中のモニカさんも手を休め静かに行列を見守る。
祭りのクライマックスは港での花火。
色鮮やかに照らされる
夜空と海と美しい家並み。
住民たちは地区への誇りと愛着を新たにした。
(レストラン経営者 モニカ・アンドレオッティさん)
「大事な祭りの夜
行進や花火を見守るため
家族たちがこの地に集まります。
生活のため観光業も必要ですが
ここが私たちの居場所なのです。」
観光客の波にのみ込まれるチンクエテッレ。
住民たちは戸惑いながらも
自分たちの故郷を守ろうとしている。