12月26日 編集手帳
大学を出て、
大企業に入るという価値観への異議申し立てか。
サラリーマンを拒み、
「なんとかする会社」を始めた若者らがもがきながら生きていく。
往年の人気ドラマ『俺たちの旅』である。
会社といっても4人だけの便利屋だから、
もうからないが、
束縛もない。
独立独歩の生き方が同世代を引きつけたのだろう。
〈あゝ青春は燃える陽炎(かげろう)か〉との劇中歌の一節が印象に残る。
放送開始の少し前、
その『あゝ青春』(松本隆作詞)で始まる野外コンサートがあった。
作曲した吉田拓郎さんが熱唱し、
「かぐや姫」も交えて熱狂は12時間に及んだ。
1975年の夏、
6万5000人を集めたフォーク全盛期の情景である。
その会場だった「つま恋」(静岡県掛川市)にきのう幕が下りた。
音楽文化を発信した複合施設の終焉(しゅうえん)に時の移ろいを思う方も多かろう。
価値観は多様化し、
働くかたちも変わった。
非正規雇用が増え、
若者は生きづらさにもがく。
「みんなで夢を見ました」。
かぐや姫の南こうせつさんは、
あの日をそう語る。
いまこそ若者が夢を描ける舞台が要る。
ゆらめく陽炎の感傷に沈んでもいられない。