8月20日 キャッチ!
中国 北京から南東に25㎞。
砂漠の先にある崖の壁面にいくつもの穴が見えてくる。
世界遺産 敦煌莫高窟。
長さ1,7キロに及ぶ世界最大級の石窟群である。
紀元4世紀ごろから約1,000年にわたって造営が続けられた。
700を超す石窟のうち492に色鮮やかな壁画の世界が広がる。
仏教芸術の宝庫で“砂漠の大画廊”とも言われる。
壁画を彩っているのは岩絵の具。
描かれた当時の美しさが今も残っている。
8月1日
日中平和条約が結ばれてから40年の節目に
日本画家 平山郁夫さんの絵画や収蔵品を集めた展覧会が敦煌で始まった。
1979年に平山さんが敦煌を初めて訪れた際に描いたスケッチや
莫高窟壁画を描いた絵画など
197点が展示されている。
シルクロードを生涯のテーマとしていた平山さんがもっとも足を運んだのが敦煌だった。
平山さんは自身の制作の傍ら
中国文化財の保護の重要性を訴えるとともに
いわゆる岩絵の具を使った技法を教えるため多くの画家や研究者を日本に招いた。
この展覧会を心待ちにしていた人がいる。
侯黎明さん(61)。
かつて東京に留学し平山さんから直接指導を受けた画家の1人である。
(画家 侯黎明さん)
「平山先生が敦煌でスケッチするのをそばで見ていました。
感慨深いです。」
侯さんのアトリエがあるのは莫高窟の研究機関 敦煌研究院。
1944年に設立された国の研究機関で
現在97人の研究者や画家が莫高窟の研究を行っている。
侯さんはここで30年以上にわたり壁画の模写に携わってきた。
使っているのは莫高窟でも使われていた岩絵の具。
さまざまな鉱物を細かく砕いて顔料としている物である。
(画家 侯黎明さん)
「莫高窟の壁画を見ても分かるように
岩絵の具が生み出す美しい色合いは1,000年を経ても変わらずに残ります。」
岩絵の具は水彩画や油絵の絵の具と違い粒が大きく
それを何層も塗り重ねることで独特の重厚感が生まれる。
この塗り重ねる技法は日本画では“重ね”と言われている。
1985年 美術大学を卒業後 敦煌研究院に入った侯さん。
同じころ敦煌を訪れていた平山さんに腕を見込まれて日本に招かれ
1989年から3年間
平山さんの研究室で日本画の技術を学んだ。
中国では長い歳月をかけて芸術の主流が水墨画などに変わり
岩絵の具を使った技法は忘れ去られていた。
その一方でシルクロードを経て日本に伝わった岩絵の具を使った技法は
その後も受け継がれながら発展を遂げ
日本画として残っている。
(画家 侯黎明さん)
「日本画を初めて見たときは驚きました。
最初はうまく描けませんでした。
花のスケッチから始めて
色を塗り
自分の絵が出来たときは岩絵の具の純粋な美しさに感動しました。」
中国では失われてしまった技法を再び敦煌へ里帰りさせようとした平山さんの思いは
侯さんによって後輩へと受け継がれている。
敦煌では新たな試みも始まっている。
それは画家たちによる壁画の完全な再現である。
“第175窟”と呼ばれる唐の時代の壁画を
色や筆使いはもちろん
壁面の剥がれ落ちた部分や変色した部分まで
4年の歳月をかけてありのままの姿に再現する取り組みである。
今はまだ下絵の段階だが
いずれは岩絵の具で彩られる。
(画家 侯黎明さん)
「私たちが敦煌の文化を継承し
現代の技術を組み合わせることによって
敦煌を未来に残し
その価値をさらに高めていくことができると思います。」