9月4日 キャッチ!ワールドEYES
8月半ば 中国南部広州市の動物園に大勢の報道陣が詰めかけた。
お披露目されたのは生まれて1か月になる赤ちゃんパンダ。
体重は1キロを超え
白黒の模様がはっきりしてきた。
さらに登場したもう1頭は生後2週間の小さな赤ちゃん。
この夏2頭のパンダが立て続けに生まれたのである。
この動物園で赤ちゃんが誕生したのは4年連続。
国の研究機関から人工繁殖のノウハウを学び成功につなげてきた。
ここ以外の施設でも今年に入って合わせて10頭以上が生まれている。
飼育されているパンダの総数は15年前の3倍以上に増え
520頭を超えた。
(来場者)
「かわいいパンダに感動しました。」
「パンダ大好き。
竹を食べてた。」
(保護研究センター 担当者)
「パンダは中国にとって自然保護のシンボルです。
みんなの努力の結果です。」
動物園でパンダが増える背景にあるのが中国の経済成長による観光需要の高まりである。
この動物園でも近年 入場者数が順調に伸び
売り上げは年々増加。
人気のあるパンダを増やしてさらに客を呼び込もうと
5年前から資金をつぎ込み本格的に繁殖を始めたのである。
展示スペースの拡大に加え
スタッフをそれまでの4倍以上に増やし
飼育の充実を図った。
(パンダ飼育員)
「これは“黄金竹”という特別な竹で
赤ちゃんを産んだばかりの母親に与えます。」
猛暑日が続いたこの夏
母親のパンダには特別な食事を与えるなどきめ細やかな飼育ができるようになった。
新たな世代の誕生へ
いま期待をかけているのが4年前に生まれたパンダたち。
実はめずらしい3つ子である。
世界で初めて3頭そろって順調に成長し
まもなく子どもを生める年齢に達する。
(パンダ飼育員)
「成功には多くの苦労がありました。
育ての母のような気持ちです。
この子たちも多くの赤ちゃんを産んでくれたらうれしいです。」
成果をあげてきたパンダの保護。
中国政府は今その動きを加速しようとしている。
8月下旬
“パンダ国際文化ウィーク”と題して各地で展示会や上映会などを開催。
開会式では「保護対策をさらに推し進める」と宣言した。
(国家林業草原局 副局長)
「中国のパンダ保護は新たな1ページを開きます。」
入り口には習近平国家主席の「自然と共生する」という言葉が掲げられ
国をあげてパンダの保護に取り組む姿勢を強調している。
これまで成果をあげてきた人工繁殖だが
実は課題がある。
飼育されているパンダだけでは遺伝子の多様性が限られるため
将来繁殖が続けられなくなってしまうおそれがある。
今年7月
この問題を解決するための大きな成果があった。
国の施設で飼育されていた雌と野生の雄による繁殖に成功。
赤ちゃんが誕生したのである。
長年国の研究機関をリードし“パンダの父”と称される 張和民さん。
野生の雄との繁殖が軌道に乗れば将来の個体数を増やしていけると期待している。
(保護研究センター 張和民さん)
「生まれたパンダは健康です。
これで新たな遺伝子が飼育のパンダに広がるでしょう。」
さらにもう1つ 国が進めているのが
野生パンダの保護知育の拡大である。
各地に60か所近く点在している保護区をつなげる“パンダ国家公園”を
2020年までに完成することにした。
実現すればパンダ保護区が四国の1,5倍にもなる壮大な計画である。
(保護研究センター 張和民さん)
「パンダ国家公園や保護のシステムが整えば
野生の個体は2,000頭を超えるでしょう。
パンダの未来は明るいと信じています。」
中国のパンダは開発や森林伐採などによって住む場所が奪われ
1980年代には野生で暮らす数が1,000頭近くまで落ち込み
まさに絶滅の危機だった。
この事態に中国政府は1983年から生息地の保護や人工繁殖などを本格的に進めた。
その対策が実を結び
最新の調査では1,800頭まで回復したと見られ
絶滅寸前という危機からはひとまず脱出した。
ただ危機がなくなったわけではない。
エサとなる竹の不足や
保護区が分断されているので繁殖のために出会える個体が少ないといった大きな問題がある。
政府が計画している“パンダ国家公園”の構想はこの課題を解決する1歩になるのではと
日本の動物園の関係者も話している。
可愛いパンダだけに保護が手厚いのではないかという批判は中国国内にもあるが
政府関係者は
パンダを保護することはほかの動物たちや人間にとっても暮らしやすい環境を作ることになると
理解を求めている。
自然環境悪化が大きな社会問題になっている中国だから
パンダをシンボルに掲げることで環境保護をスムーズに進めたい狙いがある。
また外交のカードとしての立場も見逃せない。
習近平国家主席は各国にパンダを貸し出すいわゆる“パンダ外交”を積極的に進めていて
去年ドイツに贈った際にはメルケル首相とともに式典に出席した。
ドイツは中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」に協力していて
深まる両国の関係を象徴したものと受け止められている。
また今年中には北極圏の開発をめぐって協力を深めるデンマークにも2頭貸し出すことになっていて
パンダはこうした外交戦略にも一役かっている。
パンダ保護研究センターの張さんも
数が回復すればぜひもっと海外に届けたいと話していて
数が増えることは中国にとっていろいろな価値があると言えそうである。