8月22日 キャッチ!ワールドEYES
真っ青な海と空。
“韓国のハワイ”とも呼ばれる南部のリゾート地 済州(チェジュ)島。
韓国国内をはじめ日本や中国などから
1年あたりで島民の約20倍にあたる1,500万人近い観光客が訪れる。
その済州島に今年に入りイエメンの難民が急に押し寄せたのである。
済州島ではより多くの外国人観光客を呼び込もうと
2002年からビザなしで30日間滞在できる制度が実施されていた。
そこに去年12月
イエメンからマレーシア経由で済州島に入る航空路線が新設され
今年に入りイエメンから500人余の難民が流入。
そのほとんどが難民申請をしたのである。
この事態を受けて韓国政府は今年6月
ビザなし入国精度からイエメンを除外する措置をとった。
一方国内ではこのイエメン難民をめぐり意見が真っ二つに分かれる論争に発展。
7月にはソウルなど各地で難民の支援を求めるデモと受け入れ反対を訴えるデモが起きている。
「人道的な支援は必要です。」
「世界的に注目される難民は受け入れないといけません。」
「正直 難民は怖いです。」
「外国人より自国民を優先するべきです。」
5月にイエメンからやって来たヤーセルさん(23)。
大学で経済学を学んでいたが戦闘が激化して
身の危険を感じるとともに徴兵を避けるためイエメンを離れたと言う。
イエメンでは8月2日 港湾都市ホデイダの病院が攻撃され少なくとも26人が死亡。
9日には北部の都市サアダ近郊で子どもたちが乗るバスが空爆を受け
40人の子どもを含む51人が犠牲となった。
(イエメン難民 ヤーセルさん)
「すべてが破壊され
以前のように安全ではなくなりました。
南に行けば北
北に行けば南と戦うことになります。」
イエメンから持参したお金を切り詰めてホテルに宿泊しているヤーセルさんだが
それも底をつきかけ
今は支援団体から支給される食糧などでなんとか生活している。
仕事が見つからないうえ韓国各地で難民受け入れ反対のデモが起き不安をつのらせていると言う。
(イエメン難民 ヤーセルさん)
「みんな私たちを受け入れられないと言います。
なぜ韓国の人たちが私たちを憎むのか分かりません。
どこへ行けばいいのですか。
どの国も受け入れてくれないのに。」
そんなヤーセルさんたちの心の支えとなっている人がいる。
済州島でホテルを経営するキム・ウジュンさんである。
キムさんはイスラム教の断食月ラマダンの時に
深夜 行き場のない難民たちのためのホテルの食堂を開放するなど支援を続けてきた。
キムさんのところには
“なぜイエメン人を迎え入れるのか”
“怖いからやめてほしい”
などの電話が数多く寄せられたが支援をやめなかった。
(ホテル経営 キム・ウジュンさん)
「彼らは内戦終結までここで暮らして帰国したいだけです。
見た目に嫌悪感を抱くかもしれませんが
爆撃のため天井は雨漏りがして隣人の死を目撃するのは悲惨です。」
(イエメン難民 ヤーセルさん)
「彼はラマダンのときなどで支援してくれています。
みんな彼に感謝しているし
彼のことが大好きです。」
キムさんは新たな支援を始めた。
食堂スペースで行う無料の韓国語教室である。
通常 難民申請から半年以内の就業は認められないが
イエメンからの難民に関しては特例として農業や畜産などに限りすぐに仕事に就くことができる。
しかし言葉が不自由なため採用してもらえなかったり
採用されても仕事が続かなかったりする人が相次いでいる。
毎日2時間ほど行われる教室には10人余のイエメン人が参加し韓国語の勉強に励んでいる。
(ホテル経営 キム・ウジュンさん)
「今後も韓国語を勉強できる場所を提供していきます。
内戦が終わったらイエメンに行きたいですし
彼らには“実家に泊まって”と言われています。
いい人たちで
息子のようです。」
(イエメン難民 ヤーセルさん)
「彼は必要な時は助けると言ってくれました。
内戦が終わったら祖国で会社を経営したいです。」
韓国政府は難民申請をしている500人余について
担当する法務相の職員を増やし
通常だと8か月かかる審査を3か月で終えるとしている。
このため9月中には多くの審査結果が出てくるものと見られる。
ただどのような審査結果になるのかは見通せない状況である。
韓国政府は5年前に「難民法」を定めたが認定率は4,1%にとどまっている。
キムさんをはじめとする支援が済州島の歴史に大きく影響を与えている。
済州島では7年前 一部の島民が暴動を起こし
これを保守派の韓国の初代大統領が徹底的に弾圧する「四・三事件」が起きた。
この結果 2万5,000人~3万人にのぼる島民が殺害され
一部は難を逃れるため日本に渡ったとされている。
難民を支援する多くの市民は
内戦に巻き込まれ海外に逃れざるを得ないイエメン人の状況が
「四・三事件」当時の島民の姿に重なると口をそろえて話していた。
今回の1件で
難民法の廃止を求める請願が大統領府へ寄せられ
賛同者は70万人以上にのぼる事態となっている。
こうしたなか弁護士出身でもある文大統領はまだ自らのことばで方針を示しておらず
済州島の支援団体からは
文大統領が自らのことばで難民の受け入れについて説明すべきだという声が聞かれる。
世界で難民の数が増え続けるなか
今後 韓国がどのように向き合っていくのか
隣国である日本にとっても他人事ではない。