8月12日 編集手帳
木々の緑と山肌の色に覆われた御巣鷹の尾根に、
朱や橙(だいだい)や黄色が浮かぶ。
風車(かざぐるま)である。
登山道の手すりや沢の小さな橋の上に90本ほど並んでいる。
そっと息を吹きかけると、
小さく羽根が回った。
この尾根に日航ジャンボ機が墜落し、
520人が犠牲になった。
きょうで30年になる。
事故の風化を憂え、
空の安全を訴えてきた遺族が尾根に風車を飾ったのは、
25年の節目だった。
当時の記事から引く。
〈活動を心がけながらも、
悲しみや苦難のため時に止まってしまう。
それでもまた動く。
風車を自分たちに重ねた〉。
思いを尾根の管理人らが受け止 めて、
今も風車を飾る。
悲嘆、哀惜、絶望…寄せては返す感情と向き合いながらの呼びかけは多くの心に届いている。
〈しっかり勉強して、
安全第一を考えられる航空整備士になりたい〉。
尾根の休息所に置かれたノートに、
若者らしき来訪者の書き込みがあった。
それでも事故やトラブルは絶えない。
空も陸も。
立ち止まった遺族には無力な存在であっても、
安全に責任を持つべき者が歩みを止めた時、
息を吹きかけることはできる。
そんな役目を新聞は果たしたい。