雪のクリスマスの朝、中学校の敷地で、この学校の中学生の柏木卓也の遺体が発見された。
学校、警察、両親は自殺と判断し、事態の収束に向かわせる。
そこへ、「柏木卓也は学校の不良グループに殺されたのをみた」という匿名の手紙が校長、担任、学級委員長(父親は刑事)の元へ届く。
担任へ届くはずの手紙はマスコミに届くこととなり、事件はマスコミも交えることになる。
柏木君の死は自殺か他殺か?匿名の手紙は誰なのか?恐らくそういう問題がメインではない。宮部さんは大人数の登場人物の先生や生徒たち、生徒の家族を一人づつ丁寧に描く。個性やその個性を作り上げた家庭環境なども描いている。宮部さんの作品を読むと、登場人物一人一人の風貌や家の中の様子を具体的に思い浮かべることができる。
小中学校は社会の縮図である。(今の時代、大規模な街の開発があるので一概には言えないけれど、)ありとあらゆる環境で育った子供達が1つのクラスで学んでいく。中学校という空間とそれを取り巻く、生徒、先生、保護者、そしてその周囲の人々。同じ肩書きを持っていても人の数がいれば人間性もいろいろ。高校や大学、会社に入れば、ある程度、似たような環境や学歴の人間が集まるし、世界は広がるけれど、中学生ではまだそうもいかない。いろいろなタイプの人間と折り合いをつけながら、中学校生活を送らなければならない。
優等生の藤野涼子、涼子といつもくっついているまり子、不良の大出と取り巻きの井出と橋口、ニキビができすぎて性格までねじ曲がってしまった三宅、そんな三宅に一人優しくする松子、目立たない生徒だけど、家庭の問題で悩んでいる野田。事件後対応に追われる校長(本を読んでいけば、校長の対応はもっともだと感じるけれど、メディアを通してみると自己(学校)保身を優先にする人ではないか、と思ってしまう。それは現実にでもありそうである。人気もあるけれど嫌われてもいる柏木の担任の森口先生。若い。あの子供にしてこの親ありの大出の父、病弱な柏木卓也に献身的な母と疎外感を持って育った兄・・・
三宅樹里が送った匿名の手紙を教師や警察は彼らのやり方や経験値で、子供達は普段接している子供の勘で彼女だと断定しているところが興味深い。本人だけが隠し通せていると信じていて、いろいろシュミレーションしているが、周囲はとっくにお見通し・・・こういうことってあるなぁ。彼女はひどい肌荒れのせいで、総てに対して過敏な被害的妄想に取りつかれ、攻撃的である。そしてその攻撃性は周囲の誰しも気づいている。匿名にして、筆跡をごまかせば、自分だとバレない、バレなければ何を書いてもいい、というのはインターネットの今の時代はどこまでも拡散されていく。。。(舞台は携帯電話もインターネットも出てこないバブル真っ只中の時代。連絡を取りたい時は家の電話に掛け、親が取り次ぐような時代である)
自分の中学生時代や自分の周囲にいた同級生(親しい子も話したことはなくても存在を知っていた子も)たちのことを思い浮かべながら一気に読んでしまった。