最高気温がいきなり真夏日と思ったら、連日の寒さ。遅霜の心配される信州ですが、山蕗(沢蕗)は順調に大きくなっていました。やや風が強い日の日中、妻女山の奥へ山蕗を採りに行きました。辺り一帯に一面の山蕗が葉を広げています。ここだけでなく、この下の沢にも、この上の林道にも大量の山蕗が葉を広げています。
取り方は、掴んで引き抜くと株から抜けてしまうので、人差し指中指親指で挟んで前に折ります。こうすると速く採れます。プロは葉毎採って後で分けますが、私は葉はほとんど食べないのでその場で葉をちぎります。山の物は山に返すというところでしょうか。とはいえ山蕗の採取は根気仕事です。大風の日だったので、蕗の葉には毛虫やガガンボなどたくさんの昆虫たちが風を避けて避難していました。小一時間で大鍋いっぱい分の山蕗を採りました。といっても写真は採った後ですが、まだまだ充分にあります。
伽羅蕗は、本来保存食なので醤油で伽羅色になるまで煮詰めますが、私は山蕗本来の味を活かすため薄味にします。採ってきたばかりの山蕗のあく抜きは、一度茹でこぼすだけで充分。あとはカツオ・昆布・干し椎茸の出汁、酒、味醂、砂糖(ザラメ)、醤油、山椒の若葉(木の芽)を入れて沸騰させたらコトコト一時間ほど煮るだけです。味醂、砂糖、醤油は、最初に全量入れずに途中で味を見ながら追加します。ときどき全体をやさしく返します。変わったところでは、「蕨と山蕗の煮物」もいけます。
蕗の栽培は古く、平安時代から行われています。もちろんそれ以前も食べていたのでしょうが、採取が主だったのでしょう。古名を布々岐(ふふき)といい『本草和名』や『新選字鏡』に登場します。また、『延喜式』(927)にも栽培の記録などが載っています。苳、款冬、菜蕗とも書きますが、蕗は中国では本来甘草のことだとか。誤用か意図的かは分かりませんが、日本ではフキに使われることになりました。冬に黄色い花を咲かせることから冬黄(ふゆき)。それが転訛して蕗になったともいわれていますが定かではありません。
そして山椒の若葉も摘みました。「山椒味噌」にします。酒の肴にもってこい。ひとくち含んで日本酒をすすると新緑の山の香りが口中に広がります。もちろん熱々ご飯にのせてもいいし、焼き魚に塗っても美味です。そして、一番旨いのが焼きおにぎり。これは絶品です。青い実がついたら「ちりめん山椒」を作ります。私のオリジナルレシピはジンが隠し味。ジュニパーベリーを数粒加えてもOKです。ひと味違う痺れる大人のちりめん山椒になります。
小林一茶も蕗の句を詠んでいます。いずれも山里の情景が目に浮かびます。
「蕗の葉に 酒飯くるむ 時雨哉」
「蕗の葉に 片足かけて 鳴く蛙」
「蕗の葉に とんで引くり かへる哉」
「蕗の葉に 引つつんでも ほたるかな」
「伽羅蕗を 送る帰りに 風の森」 林風
妻女山は白い花の季節。写真の三番目のカットからコバノガマズミ、マルバアオダモ、ツクバネウツギ。ツツジの紅が映えて山は新緑の中に紅白の彩り。まもなくウツギの白い花が咲き乱れます。
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