妻女山の山奥の熊が良く出る尾根筋に、今年もカタクリが咲き始めました。昨年も三月中旬に親子連れの熊が目撃されたのですが、カタクリが目当てだったのかは定かではありません。カタクリは、首都圏などでは里山の環境悪化から県によっては絶滅危惧種に指定されているところもありますが、ここ北信濃では里山から亞高山まで広く分布しています。氷河期の忘れ物といわれるように寒冷な気候を好むので、あまりに温暖化が進むと首都圏からはやがて消えてしまうかもしれません。
そんなカタクリですが、山菜でもあるのです。もちろん保護区や採取禁止の場所では採ってはいけません。天ぷらやお浸し、酢の物が一般的で、特に茎の下部の白いところは甘みがあります。葉はもっちりとして美味です。しかし、食べ過ぎると下すことがあるので注意が必要ですが…。家族分の本数だけいただいて春の味覚を味わうぐらいがいいでしょう。最近では栽培品が食用としてスーパーなどでも売られています。
カタクリの種には、エライオソームという物質がついていて、これを好む蟻が種を運んで増えるといわれていますが、開花まで7~8年もかかるのです。スミレも同様で、蟻散布植物というそうですが、一種の共生関係なんでしょう。蟻散布植物で調べてみると、カタクリ属以外にスミレ属、イチリンソウ属、フクジュソウ属、ミスミソウ属、キケマン属、クサノオウ属、エンレイソウ属など200種以上もあるようです。自然界における蟻の働きの重要さが分かります。
妻女山には、クサノオウ、ムラサキケマンがたくさん咲きますが、これらはみな蟻のお陰で増えているのです。蟻がいなくなったら絶滅してしまうのでしょうか。ただ、蟻の行動範囲は数百メートルですから、長距離の移動(散布)には動物など他の要因も必要になってくるのかもしれません。
カタクリの群生地をよく見ると、所々に細い紐のような葉が出ているのが分かります。カタクリの実生です。小さすぎて上手く撮影できなかったのですが、先端に種の殻がついているものもあります。やがて片葉が大きくなり鹿子模様の斑がはっきりしてきます。そこで、片葉鹿子(かたはかのこ)が転訛して 堅香子(かたかご)になったのではという説があります。花を傾いた籠に見立てて傾籠(かたかご)とした古名もあります。葉が7~8年もかかって約10センチ以上になると、二枚目の葉が出現し開花します。
まず片方の葉が大きくなるせいか、二枚の葉があってもよく見ると大小があり、同じ大きさのものはほとんど見られません。二ホンカモシカやイノシシ、ノウサギやタヌキがいるのですが、カタクリは食べないのでしょうか。食痕は見られません。ただし、葉を食べる昆虫はいるようで、虫食いの跡が見られます。
GWが過ぎて森の緑が濃くなると、カタクリは次第に溶けるようにして消えてなくなってしまいます。そして来春まで深い眠りにつくのです。
「もののふの 八十乙女らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子の花」 大伴家持(万葉集)
これは情景描写ではなく、家持は地方に赴任していた時の歌ですから、カタクリの群花を都の娘達に例えて懐かしんだ歌なのではないでしょうか。もののふとは武士のことですが、万葉の時代には宮廷に使える人をいいました。
★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。山藤は樹木で。他にはキノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、特殊な技法で作るパノラマ写真など。カタクリは、花 春に載っています。
★春の妻女山・斎場山・鞍骨山トレッキングルポは、【MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】をご覧ください。