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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

「黙然もあらむ 時も鳴かなむ 晩蝉の~」万葉集(妻女山里山通信)

2009-07-29 | アウトドア・ネイチャーフォト
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 赤松林の森に足を踏み入れると、足元からゲッ!といって、いきなりセミが飛び出しました。それも一匹や二匹ではありません。歩くたびにあちこちから飛び出してきます。ヒグラシは、夜樹上で羽化して朝には飛び立っていくのですが、夜の雨ではねが乾ききっていないのかもしれません。或いは、激しい雨を樹上ではなく地上でやり過ごしたのかもしれません。いずれにしても、歩くたびに次々と地上からヒグラシが飛び立っていく様は不思議な光景でした。

ヒグラシは、俗にカナカナといいいますが、近くで聞くとカナカナというよりは、ケケケケケケッとかギギギギギッとか聞こえます。また遠くなるとシャンシャンシャンと鈴を鳴らすようにも聞こえます。セミは、発音筋を1秒間に何万回も動かして鳴くわけですが、腹腔のほとんどが空洞で、それだけ鳴くということがセミにとって重要だということが分かります。ちなみにセミが鳴くのはオスだけです。

 セミの中でもヒグラシは、漢字で書くと「蜩」「茅蜩」「秋蜩」「晩蝉」「日晩」「日暮」と色々あるように、その物悲しい鳴き声からか万葉の昔から日本人好みの昆虫でした。俳句では秋の季語ですが、実際はニイニイゼミなどと同じく梅雨から鳴き始めます。季節的には秋のセミではありません。しかし、カナカナカナと鳴く薄暮の森に佇んでいると、不意にとてつもない寂寥感に襲われるような気がします。

 万葉集には、セミを詠んだ句が10首、うちヒグラシを詠んだものが9首あります。このヒグラシが、現在の種としてのヒグラシかは諸説あるそうですが…。

「ひぐらしは時と鳴けども片恋に たわや女(め)我れは時わかず鳴く」[詠人不知]
(ひぐらしは決まった時間に鳴くけれど、片思いの恋に悩むか弱い私はいつも泣いてばかりです。)

「黙然(もだ)もあらむ時も鳴かなむ晩蝉(ひぐらし)の もの思(も)ふ時に鳴きつつともな」[詠人不知]
(何もない時に鳴いて欲しい。物思いに耽っているときに鳴かないで欲しい、ということですが、やかましいと言っているのか、物悲しい鳴き声は止めてくれと言っているのか。どちらでしょうね。)

 蝉時雨というのは夏の季語ですが、セミの大合唱を時雨の音に例える辺りの日本人の感性は、やはり素晴らしいものがあります。セミの鳴かない北方の人にとっては騒音にしか聞こえないそうですし、アマゾンのバイクのクラクションを鳴らしっぱなしにしたようなセミの声では、蝉時雨というより土砂降りのスコールですから、叙情的になる術もありません。

 赤松の森を下って広葉樹林を登り、杉林を下ると棚田に出ます。たくさんの昆虫たちの棲みかだった棚田のあぜの斜面が全て除草されていました。毎年のこととはいえ虫たちにとっては一大事、大騒動です。留まる花がなくなったツバメシジミがようやく見つけたシロツメクサの残花にしがみついていました。小さな溜池に続く小径のウツボグサに小さな虫を見つけました。ハサミムシの一種ですが、カメラが嫌いらしく何度追っても隠れてしまいます。

 薄暗い森のトンネルを抜けると、いつの間にか夏の太陽が出ていました。そこで発見したのが最後の写真。クズの茎にしがみついたフキバッタなんですが、なにか変ですね。そうです、既に絶命しているのです。おそらく菌類に冒されたのだろうと思います。バッタタケという冬草夏虫かもしれません。体内に寄生し、バッタをなるべく高いところへ誘(いざな)って瞬殺します。そして、やがてバッタの体外へ子実体(キノコ)を形成し、胞子を飛ばすのです。高いところへ誘うのは、できるだけ遠くへ胞子を飛ばすためです。

 バッタタケではありませんが、中華街へ行くと芋虫から生えたキノコを芋虫付きで乾燥させて束ねたものが売られています。大変高価です。古くから長寿滋養強壮の食材として宮廷料理に使われてきました。

 森を抜けて車に戻ると、生まれたばかりのカラスの赤ちゃんが梢の中から激しく餌をねだっていました。母カラスは、林道から見上げながらピョンピョン跳ねてかなり焦った様子。暫くして一目散に餌を探しに飛び去りました。ヒグラシが鳴き出したので帰路に就きました。

 ★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、特殊な技法で作るパノラマ写真など。キノコ、粘菌、夏の花、昆虫、樹木、蝶などを更新しました。トレッキング・フォトルポにない写真も掲載してあります。

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