世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

病鬼

2015-11-16 03:35:51 | 詩集・試練の天使

あらゆるものに
うそをついて
じぶんばかり
いいめをみた男に
病鬼がとりついて
目に大きなこぶができる

こぶはだんだん腐ってきて
そいつはとうとう目が見えなくなる
そのとたん 口の奥から
今まで腹の中に溜めこんできた
真実がゴロゴロと出てくる

ああ いやだ いやだ
いやなことになるのはいやだ
いたいことはなしにして
しあわせないいものになりたい
つらいおもいなんかしたくない

どろぼうでも うそつきでも
だまってさえいれば
だれにもばれないのだ
じぶんじしんにさえも

もう二度と
つらい思いなんかしたくないんだよ
それでなきゃ勉強ができないって言われても
いやなものはいやなんだよ

そうやって逃げてばかりいたから
病鬼にとりつかれて
おまえは死ぬほど苦しい目にあわねばならない
何もやってこなかった反動は
いつも思わぬ方向からやってくる

もう そろそろ 馬鹿はやめよ




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合成人間

2015-10-15 04:05:59 | 詩集・試練の天使

今の世界は
合成人間の世界です
合成人間ばかりが
人間の世界を歩いています

昔は本当の人間がたくさんいましたが
今の時代は 合成人間が
本当の人間をほとんど殺してしまいました
なぜなら本当の人間がいると
自分が合成人間であることが
簡単にばれてしまうからです

なぜこんなに合成人間が増えてしまったのか
それは本当の自分をいやがって
他人から盗んだ美を組み合わせて
全然違う肉体を作り
心もほかの心と混ぜ合わせて
全然違う心を作って
全くちがう自分になりたかった
そんな人間がいっぱいいたからです

合成人間は
自分と違う者になれて
うれしくていっぱい楽しいことをやりましたが
死んでから 
全てが嘘だったということに気づいて
夢から覚めたようにがっくりしました
自分はけっこうすごいやつだと思っていたのに
本当はひねた餓鬼のようなつまらないやつで
自分の人生でやったすべてのことは
自分がやったことじゃないということに気づいて
馬鹿馬鹿しくて しんどくて
糞みたいな人生だったとつばを吐いて
どこかへ行ってしまいました

合成人間は
人間がずるでやってることだから
どんなに一生懸命やっても
何にもならないのです
何も自分の力にはならないのです
本当の自分でやったことでないと
自分の本当の力にはならないのです

合成人間は 死んでから
本当の自分に戻ると
あんまりに自分がみじめで悔しくて
泣けてきて
どんなにがんばっても
みんなのようになれない自分が
いやでいやでしょうがなくて
またいつものように
今度の人生も合成人間にしてくれと
馬鹿のたまり場にやって来るのです




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茶碗

2015-09-07 05:14:12 | 詩集・試練の天使

はがれた
夢の中を
さまよいながら
わたしは
思い出したくない
記憶の中を
目を閉じて
通り過ぎてゆく

べつに
わたしが嫌いでも
かまわないのだよ
わたしは
気にしないから
けれど どうか
そんなに乱暴に
わたしの前で
茶碗を割らないでおくれ
出ていけとばかりに
もう
出ていくから

はがれた
夢のしじまに乗って
もうふるさとに帰るから

ふるさとには
やさしく
わたしを
甘えさせてくれる
愛がいる
そこに
わたしは
帰るから

もう二度と
わたしのために
無理などしなくてよいから

もう
わたしは
帰るから
そんなに
乱暴に
茶碗を割らないでおくれ





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どんどんばかになってゆく

2015-09-05 04:04:36 | 詩集・試練の天使

どんどんばかになってゆく
だんだんだめになってゆく

はじめはほんの少しの
つまずきだった
それが思いのほか大きくなって
自分の頭に落ちてきた

どんどんばかになってゆく
だんだんだめになってゆく

あらゆるものが こわれてゆく
あらゆるひとが はなれてゆく
自分のものだと思っていたものが
不思議な穴にすいこまれてゆく

どんどんばかになってゆく
だんだんだめになってゆく

一生あると思っていた
家が紙くずのようにくずれてゆく
顔が歪んで仮面がずりおち
おまえの正体が見え始める

どんどんばかになってゆく
だんだんだめになってゆく

もう二度と元には戻れない
幸福の嘘芝居はみな消えて
おまえにあるものは ただ
たったひとりの自分だけ

どんどんばかになってゆく
だんだんだめになってゆく

その自分すら
嘘だった

どんどんばかになってゆく
だんだんだめになってゆく

なにもかもが
嘘だった




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ファエトーン

2015-04-29 07:01:36 | 詩集・試練の天使

何もわかっていない餓鬼が
自分は相当に偉いものだと思って
勝手気ままに好きなようにやったら
世界の半分が
青い泥沼の方へ傾いた

何もわかっていない餓鬼は
自分が何もわかっていないということが
わからない
だから自分のイメージだけで
すべてをやれると思って
ファエトーンのように
太陽の馬車を好きなように乗り回し
夜と昼をかきまわしたら
世界のすべてが
灰の砂漠の方へ傾いた

人間よ 人間よ
浅はかな 人間よ
馬鹿をやった結果を
自分が背負うのが嫌で
いつまでも逃げてばかりいるつもりか

若いということは特権ではない
あまりにも阿呆だということだ
おまえたちはまだ子供だったので
おごり高ぶっても
親は我慢してくれていたのだ
しかしこれからはそうはいかない

大人の勉強ができていないものは
馬鹿と呼ばれて嫌われる
愛の美しさと痛みがわからないものは
餓鬼と呼ばれて逃げられる

勉強をしろ 勉強を
おまえたちはまだ
何もできない餓鬼なのだ
大人を馬鹿にして
餓鬼が偉いと思っている馬鹿なのだ

ファエトーンは墜落する
若さゆえの傲慢を着たまま
何も勉強せずに
大人になったものは
後ろ暗い馬鹿になる
密室で鳥を殺しては
その心臓をなめて笑っているうちに
もう若くなくなった自分に驚いて
魂のない馬鹿になる




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明日は

2015-01-29 06:49:47 | 詩集・試練の天使

明日は どこからやってくるのだろう
遊び疲れた子りすが
子守唄を聴きながら眠る
その夢の中から

昨日は どこに行ってしまったのだろう
恋人を失った女の子の
涙が溶けているインクで書かれた
小さな日記の中に

今日は どうしてあるのだろう
君の喉に隠れている
愛のささやきを
大すきなあの人の耳元でさえずるため

昨日までいた あの人は
どこに行ってしまったろう
岩のように大きな 緑の木の
深い根の中に隠された
エメラルドの思い出の中に

流れていく空は どこまで行くのだろう
これ以上は見てはだめだよと
神さまがそっと扉を閉じる
大きな秘密の紙芝居の中まで

わたしの知らない秘密は
どれくらいあるのだろう
深い海の底で 緑の燕が一羽
小さな緑のたまごを生むまでの 
時の数だけ




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冬の日差し

2015-01-27 07:01:00 | 詩集・試練の天使

思い出を切り取り
あなたの影を
窓のむこうに置いてみる

わたしはふりむかない
ふりむけば とたんに
幻は消えてしまうと
わかっているから

ただ 小さな鉛筆など持って
書き物をしながら
窓の向こうからわたしを見ている
あなたのまなざしを感じるのだ

ああ あのひとの瞳は
小さな水仙のため息に似ていた
水晶を風に溶かしたように
透明に光っていた

小鳥に呼ばれたような気がして
思わず窓をふりむくと
ああ もうあなたはいない
静かな冬の日差しが
窓をあたためているばかり

わたしがもう一度
思い出をめくって
あなたの姿を探そうとすると
誰かが 静かな声で
もうやめなさいと言う

わたしは空耳を探して
もう一度 窓をふりむく
さっきの声は
あなただったのではないですか

わたしは窓を開けて
冬の日差しを浴びる




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絶望

2014-05-13 06:11:47 | 詩集・試練の天使

大陸のごとき巨魚が
腹を見せてひっくりかえる
叫び声をあげることもなく
断末魔の痛みさえもなく
ある日突然
あっけなくひっくりかえる

アトランティスが沈むような
阿鼻叫喚もない
恐怖の大王の襲来のような
暗闇の支配もない
ただ突然 すべてが
生きながら死に絶える

あれほどおもしろかったテレビが
ちっともおもしろくない
あんなにかわいかった女の子が
ちっともきれいじゃない
あんなにおいしかったお菓子が
ちっともおいしくない

なんなんだこれは
ばかみたいだ
なにをやっているんだ
にんげんは

なにをしてもつまらなくなった
人間は
一斉に
生きるのがつらくなって
家に帰る
帰ってもおもしろくないから
部屋でぼんやりしている
何をしても何の意味もない

生きているのか おれは
死ぬことさえできないのか

何もかもが 馬鹿になった人間たちが
蟻の行列のように歩きだす
みなが目指している所には
小さな社があって
天使がひたすらに
人間のために祈っている




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背景の反乱

2014-04-27 06:12:18 | 詩集・試練の天使

車と家が
人々から去ってゆく

広い庭から
庭木が裸足になって逃げだす

こんなものは馬鹿みたいだと
放っておいたものが
いつの間にか消えている
必要だと思ったときに
それはない

ブランド物のバッグが
溶けて消えてゆく
かっこいいブーツが
足から逃げて行く

アニメ塗りのような
ファンデーションが
とれない
自分の本当の顔が
馬鹿になる

空が落ちてくる
海が反乱する
風が棒のように硬くなる

花は凍る 森は拒否する
水は飲もうとすると
馬鹿かという

何もかもは だれかが許してくれていたから
あったものだったのに
それは当然 自分のものだと思っていた
そういうものが
一斉に
人間から去って行く

背景の反乱だ
ネガとポジの反転だ
人間よ
おまえたちはもう
主役ではない

舞台の隅に退き
カーテンのほころびでも
つくろっているがいい



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カーニバル

2014-04-01 03:54:41 | 詩集・試練の天使

天使は人間を救った
ひとりもこぼすまいと
一生懸命がんばって
人間を救った
ぼろぼろになって死ぬまで
やった

人間は天使に
ラップとスリッパをやった
それはスーパーの新装開店の
記念品だった
天使はいってしまった

カーニバルが
始まるというのに
人間はまだ
相談をしている

一室に集まって
馬鹿な顔を突き合わせて
愚にもならぬことを相談しあっている
交通整理は誰がするのか
駐車場はどこに確保するのか
子供たちの安全はどうなのか

カーニバルの日は
過ぎたというのに
まだ人間は相談をしている

道路の穴はいつ治すのか
だれも川に落ちないよう囲いを造らなければ
髪の毛一本も落としてはならない
いやなことになったら誰が責任をとるのか

カーニバルはもう
過ぎたというのに



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