世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

はるかかなた

2013-11-11 12:38:27 | 詩集・試練の天使


赤くも酸い林檎を噛みながら
銀の上着を羽織り
外に出る

石の町を横切り
白翡翠の死体が歩く
スクランブルを泳ぎ渡り

さざれ石となった電話の音が
暴力的に吹き荒れる
音楽の町を過ぎ

鈍く固化した練水晶の
城砦の門に向かう
門を出るとそこは砂漠の部屋だ

はるかかなたに
竜の背びれのような
真珠の金字塔の列が見える

金字塔は夢の褶曲運動のように
かすかにうなりながら
遠い未来をつくっている

旅人はすべての夢を捨て
はるかかなたに向かう
その歯は震えながら涙の歌を奏でる
オルゴールの歯車のようだ




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天使

2013-11-10 10:07:42 | 詩集・試練の天使

銀白の夜に わたしは彼を抱きしめた
人格の融合とは
セックスよりも貴い
天使の幸福だ

もはやわたしはわたしではない
もはや彼は彼ではない
彼の歩いてきた道に
落としてきた白い真珠の光が
かすかに さくらの花びらのように
薄紅に染まる

ひとつであった時間を
奇跡のように共有することが
はげしく君を愛させる
たまらぬ 
魂の叫びだ

(ああ ほんとうに
 わたしは
 よいことを したいという
 きもちの かたまりなのになあ)

愛している
ああ 愛している

泣いているのも
答えているのも
あなたなのか
わたしなのか
どちらでもよい

わたしたちは溶けあい
月に染まる
ひとつの 大きな
詩人の影になる

紺青の頭蓋の空に
ふたつの月をかかげ

ひとつの清い影になる




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白い天使

2013-11-08 04:17:19 | 詩集・試練の天使

薄氷の鉄の大都会
すりつぶされてゆく魂の叫び
人間の顔をした吸血鬼が
世界を跋扈する

風のようにやってきた白い天使が
すべてを救い
風のように去っていく

残された者たちは
嵐の夜に
天使を見失う

気づいた時には
すべてが遅かった
甘い砂糖の砂漠の中で
幻影の街を背負っていた
蟻のような人間たちが
気づいた時には
すべてが終わっていた

何が悪かったのか
吹き去っていった風の名残を
追いかけながら叫んでも
時は帰っては来ない

埋めて隠した十字架を掘り起し
それを背負って歩き出せ
人類よ
もはや子供ではない

白い砂糖飴の夢に甘えて
何もしなかった人間の
愚かなる現実を
苦き林檎のごとく飲み下し
歩き出すがよい

人類よ



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木漏れ日の下で会いましょう

2013-10-12 03:41:15 | 詩集・試練の天使

木漏れ日の下で会いましょう

とわに
会うことができなくても
わたしは
木漏れ日の中に
わたしの幻を描いておいたから
あなたは ときに
木漏れ日の中で
わたしに会うことができる

小さな愛の庭の中で
あなたはわたしに
愛をささやくことができる
ときには
涙をふいてくれることもできる
小さな娘のように
だきしめても
かまいませんよ

木漏れ日の下で会いましょう
夏の光
秋の風
冬の静寂

春の目覚め

幻の解ける時
もうわたしがいないことを
何度確かめることになっても

夢を見ていいのですよ
また

木漏れ日の下で会いましょう



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ゆふづつ

2013-10-09 05:05:30 | 詩集・試練の天使

ゆふづつの
みなもにうつる
しろきかげを
ひろひ ひろひあつめ
あなたの
おもかげを
かりどこのゆめにぞ
ゑがかむとす

ゆふづつは
きよらにも
すがしく
目をとぢし昼の空の
かたへにひかりて
すべてを
やすらぎに
かへさむとす

あたらしき
月を磨き
白き光を導き
ああ
光そそぐ地に
かすかな ゆくすゑに光る
希望のしとねに
嬰児のごとき
再会の夢を
夢を 織らむ
しばし しばしの
夢の吐息の
流れ星の沈黙のごとく
流れる間は

二度とは会ふことなき愛と
再びまみゆる
奇跡の時を
ゆふづつは 夢にうたふ

あたらしき 月影を
導き
白き光の愛を
地にそそぎ

とはの ねぶりの
まどろみの 夢まぼろしに
消え去りし愛を
恋ふることを
愛のうちに 許す



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愛している

2013-10-06 04:02:33 | 詩集・試練の天使

愛には 溶けていく
響きあう

あなたの愛と
わたしの愛が
どのように
かけ離れていても

わたしたちは 
溶けていく
ただひとりの
男のように
なっていく

どちらが
わたしだったか
どちらが
あなただったか
もはやわからぬほど

愛するほどに
あなたがわかってゆく
胸に抱く
こわれたあなたの
こころを
わたしは自分の胸に埋めてゆく
すべては
もはや

あなたと
わたしの
境界が
どこにあったのかさえ
わからぬほど
愛している

愛している

愛している



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人間よ

2013-09-14 05:15:53 | 詩集・試練の天使

人間はいつもそうだ
やっとわかったときには
すべてを失っている

なにもかもは
馬鹿だったと
わかったときには
いちばん大切な愛が
消えている

それでも
悲しみを
ないことにして
不自然に明るい
テレビのヴァラエティ・ショーに
逃げていたら
もはや
歩くことができなくなるほど
足が腐り果てていた

灰の混じった葡萄酒を飲み
悲しみを腐らせ
それが溶けてしたたり落ちるまで
放っておいたら
もはや
人間であった自分をも
失った

なにもかもが
馬鹿だったと
わかるのは
全てが終わった後だ

人間よ
人間であったものたちよ
それでも
呼ぶ声に振り向かず
震える手で
空かない酒瓶の栓を
必死に空けようとするか
これ以上飲めば死ぬというのに

失った命が
何であったのか
死なねばわからないのか

奈落に落ちていく身を
見知らぬ誰かと思い
知らぬふりをするおまえを
憐れんでいるものが
重ねるため息に
空気が重くなってゆく
もはや
ここまで来たが

おまえはまだ
酔い続けるのか



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だんだん馬鹿に

2013-09-03 05:22:52 | 詩集・試練の天使

だんだん馬鹿になってゆく
とうとう馬鹿になってしまう

昨日 神様のお庭から
薔薇を一輪 盗んでいったやつは
だれだ
昨日 神様の小箱から
真珠を一粒 盗んでいったやつは
だれだ

だんだん馬鹿になってゆく
とうとう馬鹿になってしまう

昨日 天使の書庫から
魔法の本を一冊
盗んでいったやつはだれだ
昨日 天使の箪笥から
襟巻を一枚
盗んでいったやつはだれだ

だんだん馬鹿になってゆく
とうとう馬鹿になってしまう

昨日 神様の御胸から
愛をひとつ
盗んでいった
やつはだれだ



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あの声

2013-09-02 05:25:29 | 詩集・試練の天使

あなたの声は
そよ風に澄んだ星が
混ざっていたようだった
あるいは
清らかな流れに
ミントの魚が泳いでいたようだった

声を聞くだけで
魂が飛んでいった
いつまでも聞いていたかった
なにもかもを
忘れてしまうほど
美しい声だった

何物も混じらない
清らかな愛の白い花が
無垢の衣も必要ないほど
美しく咲いていた
香りもないのに
澄みあがった香りが
清らかに歌っていた

あの声を
もう
二度と聞くことはできない

歌を歌った
何を請うわけでもなく
ただ切なく存在そのものに
しぼられる痛みを
静かな鳥を吐くように歌った
愛していると
すべてを

あの声を
もう
二度と聞くことはできない



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笑顔

2013-08-30 04:33:09 | 詩集・試練の天使

あなたの 笑顔はやさしかった
振り向きざまの まなざしは
澄んで 明るかった
空気に 花が咲いたようだった
だのに あなたはすぐに
むこうにいってしまう
すぐに 見えなくなってしまう
あなたが いなくなって
笑顔が なくなったとき
空気が いっぺんに
暗くなった

ひとは そのさみしさが
苦しくて
忘れたくて
あなたを 憎んだ

あなたの 笑顔は美しかった
ああ なにか
とてもいいことを しているんだね
しあわせだね
みんな だいすきだよ
あなたの こころが
すなおに 笑っていた
ああ
あの笑顔の中に
あなたの心があったことを
そこにあなたがいたことを
だれも きづかなかったのだ

最高の魂が
すべてを祝福していたのに
それだけで 世界が
人生が
すべて 明るい
よいものになったのに

すべてが わかったときには
なにもかもが おそい

あなたの 笑顔を
見ることは もう
永遠にできない




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