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ざわざわと騒ぐ村人たちの間を、若いものたちが走り回り、鹿の肩甲骨で作った小さな杯を配り始めた。そして別のものが、薄い林檎の酒をそれに注いでいった。子供には、煮た栗や干しグミが与えられた。飲めや歌えのどんちゃん騒ぎが始まった。これからが、祝いの始まりなのだ。
「今年の作柄はいいな。エルヅによると去年よりずっといいそうだ」
疲れて帰って来たアシメックに、ミコルが言った。
「そうか、いいな。まだいろいろなことがあるが、今日は忘れて飲もう」
アシメックにも杯が差し出された。彼も酒を飲んだ。うまい酒だ。野生の林檎を発酵させてつくる濃い濁り酒を水でうすめたものだったが、それでも十分に酔える。アシメックも干し魚を食いながら何杯も飲んだ。
族長の席についていると、若者が次々に酒をつぎにきた。彼らにとっては、アシメックと話ができるのは、こんな時以外になかったからだ。若者というのは、だいたい二十代までのものをいう。三十代に入ると、村では年寄り扱いされた。サリクはまだ、ぎりぎりで若者の仲間に入っていた。
注ぎ口のついた壺を持ち、サリクはどきどきしながら、アシメックに近寄って行った。晴れの装いをしたアシメックは、まぶしいくらいにいい男に見えた。アシメックが杯を空にしたのを見計らって、サリクは急いで酒を注ぎに行った。
「アシメック、酒を入れるよ」