出張先で時間調整のため、古い雑居ビルの二階にあるビストロに入ってみた。
ランチタイムの終わりまであと5分というタイミングだったので、ドアを開けながらまだ大丈夫ですか?と店内をのぞき込むと、白米は終わっちゃいましたが、ケチャップライスでよければ、と厨房から声が返って来た。
広くない店内には女性が二組と、カウンターになじみ客らしい中年男性が一人。僕はカウンターの反対側の端に座って、本日の魚料理セットをオーダーした。
オーナーシェフが調理から配膳まで一人でこなしており、それでも料理を出すたび必ず一言添えている。
僕の前にはまずトマトの冷製ポタージュが運ばれてきた。
そのあとメインはマグロのフライの夏野菜ソース添え。三枚も?とそのボリュームに驚いていると、ケチャップライスがまた大盛りで、体のわりに小食な僕は内心焦りを感じていた。
テイクアウトの弁当も、そろそろ出なくなってきましてね。
話し好きらしいオーナーが言う。
このライスはお弁当用か。
先客たちが出て行くと、さらにオーナーはいろいろ話してくれた。
先週、この店をオープンして5周年だったんですが、こんなコロナの状況にか、と恨めしく思いましたよ。
私はSホテル(東北で最初の洋式ホテル)で仕事を始めまして、それから34年間、飽きないように色々メニューを変えながら料理を作っています。
お客さん、初めての方ですが、お味はいかがですか?
「ええ、非常においしいです、ボリュームもあって。」
そう答えると、彼はいい表情で笑った。
ボリューム感は大事にしてるんで。
ぜひまたいらしてくださいね、と名刺を差し出された。
デザートはクリームブリュレと、蒸しケーキにバニラアイスクリームを添えて。コーヒーメーカーのホットコーヒーはセルフサービスで飲み放題とのこと。
この日は客がもう僕一人だったので、オーナーが出してくれた。
これで850円?!
オーナー、大丈夫ですか?という僕の問いかけに、彼は再度快活に笑った。
満腹過ぎてそのあとの打ち合わせに支障が出るほどだったけれど、思いがけずとても楽しいひとときを過ごせた。きっとまた行こう。