多くの県民が被災しているというのに、民放のローカル番組はいつも通りの料理コーナーや買い物情報を垂れ流していて、醜くゴルフ焼けしたちょびヒゲの司会者に対して僕は殺意に近いものを覚えるほどイライラしていた。
やっと画面は被災地に切り替わり、レポーターが現状を伝え始めた。
え?僕は目を疑った。
テレビに顔を近づけた。
やはりそうだ。
体育館かどこかの駐車場だろうか、男性レポーターの後方で一心不乱に泥かきをしているのは、ざしき童子だった。
きみがいれば、その町は大丈夫だ。
でも、あまり頑張りすぎないで。
僕は画面に向かい、心の中で強く念じた。
「がんこちゃん」はNPO法人なごやか理事長が使う最上級の褒め言葉なのだそうだ。
なぜこうも揃ってみな頑固なのか、まったく、なごやかはがんこちゃんの一大生息地だ、と嬉々として語っている。
「その代表格の、グループホーム虔十のY管理者へは時々言うんだ、『きみは真っ直ぐ過ぎてカーブもよく曲がり切れないし、壁にぶつかったらひとの形に穴が開くだろう』と。でもね、内心それでいいと思っているし、自分が信じた通りにして全然かまわないって思っている。がんこちゃんが住みよい環境を、僕は作って行きたいね。」
会員各位
令和元年10月18日
気仙沼・南三陸介護サービス法人連絡協議会長
(公印略)
台風19号被害への義援金募金について(お願い)
錦秋の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。また平素は本会の運営に格別のご高配を賜り、厚く感謝申し上げます。
さて、このたびの台風19号により発生した各種災害のため、同じ宮城県民をはじめとして多くの方々が今なお不自由な生活を余儀なくされるなど、困難な日々を送られています。私たちも東日本大震災の際には、全国の心ある方々からさまざまなご支援を賜りました。
つきましては、本会も微力ながらなにかお役に立てればとの思いから、下記の方法にて募金を集め、義援金として被災地で活用していただきたいと考えております。すでに各法人・事業所等でそのような活動をされているところもあるかとは思いますが、なにとぞご理解とご協力を賜りたくお願い申し上げます。
なお、送り先につきましても、ご意見等ございましたらお気軽に事務局までご連絡下さい。
記
1.集金範囲 会員各事業所内
2.募金対象者 事業所職員等
3.募金期間 令和元年10月18日~令和元年10月31日
4.とりまとめ 気仙沼・南三陸介護サービス法人連絡協議会事務局
※令和元年11月10日までに、4のとりまとめ先までご持参下さい。
※金額の多寡にかかわらず、温かいご支援をお待ちしております。
以上
起案書の決裁のためNPO法人なごやか理事長の事務室を訪ねると、理事長は机に向かって右に左に首をひねっていた。
手には奇妙な紙片を持っている。
表
裏
私の視線に気がついた理事長は照れくさそうな表情を浮かべた。
「これはヘクサ・テトラフレキサゴンというパズルの一種なんだ。
ずいぶん前に外部研修へ参加したミス・エイスワンダーがお土産だと置いて行ったのだけど、結構難しくてね。
久しぶりにチャレンジするから一層難しく感じるよ。」
また折り出した。
あら、そこはそうじゃありませんよ、と口を出したくなったが、いつもは落ちつき払っている理事長が、背中を丸めて一心不乱に小さなパズルに取り組んでいる姿はなかなか可愛らしくて、ひょっとするとミス・エイスワンダーはこれが見たかったのかも、と私は思った。
がらんとなった施設の園庭でイベントの後片付けを行なっていると、頭の上から声がした。
「えらいわね、準備から後始末まで全部一人でして。」
ざしき童子だった。
屋根の上、一番高い棟(むね)に腰掛けている。
きみは風の又三郎か?
済んだ青空を背景にした彼女は一幅の絵画のように美しくまぶしかった。
「ううん、昔は、きみが来る前は会社が小さかったので、手配から何から、一人でやっていた。全然苦にならないよ。
それより、日焼けするからそろそろ降りた方がいいと思うな。」