仙台市街のとある交差点で信号待ちしていてふと横を見ると、角地に小さな店舗があった。
狭小店舗かあ、この形は積水ハウスの商品だな、外階段で二階の住居部分へ上がるのか、などとぼんやり考えたのだが、そのあと、え?と出入口上のオーニングテントを二度見してしまった。
そこには店名として「ジュリエット・ラブ・ケーキ」と記されていた。
ジュリエット、ラブ、ケーキ。最強の単語を集めている。
これより素敵な店名を考えるのは至難の業かもしれないぞ。
もし二号店を出すとしたら、うーん、、ロメオ・ラブ・カヌレ、、、ちょっと。
結局思いつかなかったものの、自宅へ戻るまでハンドルを握りながらのいい頭の体操になった。
僕たち1970年代半ばから映画館に通い出した世代からするとジャン=ポール・ベルモンドやアラン・ドロンはすでに大スターで、彼らの代表作は頻繁にテレビで放映されていた。
それを逃さず観るうちに、ベルモンドの映画ではゴダールやトリュフォー、ジーン・セバーグ、アンナ・カリーナ、クロード・シャブロールらの名前を、ドロンの映画ではヴィスコンティやミケランジェロ・アントニオーニ、ジョセフ・ロージー、マリー・ラフォレ、ロミー・シュナイダーらの名前を知り、やがてベルモンドやドロンの出ていない彼ら・彼女たちの作品を観るようになって行った。
そういう映画青年は多いと思う。
二人は日本の映画ファンにとってフランス映画、ヨーロッパ映画の入り口であり、良きガイドだったのだ。
僕はどちらかというとドロン側で、実際ドロン当人やミレーヌ・ドモンジョ、ジョゼ・ジョバンニ(作家・監督)、マリアンヌ・フェイスフル、ニコ(ドロンとの子がいる)に会ったり観たりしているが、ベルモンドは舞台劇「シラノ・ド・ベルジュラック」公演で来日した際、仕事の都合で観に行くことができず、長年の心残りとなっていた。
さようなら、ベルモンド。いろいろ教えてくれて本当にありがとう。安らかにお眠りください。
「勝手にしやがれ」より、ジーン・セバーグと。
僕が通った大学の学科にはきわめてローカルな古い都市伝説があった。
それは、卒業生が60歳を迎えた時、その3割が都道府県・市町村の首長や議員になっているというものだった。
たしかに、クラスメートの中には首長の息子がいたりしたが、あとのほとんどは民間企業に就職して行く。まさかと思っていた。
あれから40年近くがたち、周囲を見渡してみると、あながち伝説でもないような気がしている。
なにせ、退任間近だが、OBが政権与党の幹事長職をとっているのだから。
一方で、被災県の知事に大暴言を吐いて大臣を解任され、病院で狂死した者もいる。
月並みな感想だが、どこを出たかより、出たあとどのように過ごしたかの方が大切だ。
思うにOB中最強(狂)の論客
35、6歳で念願のキャデラックを買った。
5.5メートル超の黒光りする車が積載車で届いた時は、ああ、果たしてオレはこんな最高級車に乗っていいのだろうか、と背筋がうすら寒くなった。
これからは映画「見知らぬ人でなく」のシナトラのように、「きみはキャデラックに乗っているんだって?」と尋ねられたら、「いえ、キャデラックが僕に乗ってるんです」と答えてやろうと思った。
ところがこのキャデラック、所有していた5年のうちの半分以上、ヤナセの修理工場に入っている、ニートな車だった。
最期に大きなトラブルを起こし、ヤナセの営業マンから高額な見積書を手渡された僕はさすがに癇癪を起した。
「大統領も乗っている最高級車がこんな体たらくって、どうなんでしょうね?」
すると相手は苦悩の表情を浮かべながら、ぽつんと言った、
「日本の風土に合わないんです。」
その一言に、あきれるより怒るより、なんだか妙に腑に落ちた。これまでの胸のつかえがすとんと落ちたような気がした。
修理をあきらめた僕は工場に入ったままの車を二束三文で売り払い、計10年に及んだ出費続きのアメ車生活に終止符を打った。
先日、息子から誕生日のプレゼントなのか、初任給で買った感謝の贈り物なのか、マネー・クリップをもらった。
これはまた、日本の風土に合わないものを。
初めはそう思った。
僕がマネークリップを持つのは二度目だ。
サラリーマンになってまもなく、ティファニー・ブティックでシルバーのシンプルなものを購入した。
背伸びしてしばらく使ってはみたものの、どうも日本人のライフスタイルに合わない。
受け取ったレシートは、キャッシュカードやクレジットカードは、小銭は、どうする。
意外に思われるかもしれないが、マネークリップでのお金の挟み方にルールはなく、自分が使いやすいようでいいのだ。
まとめて挟んでも、一枚ずつでも、縦に挟んでも、横でも、二つ折りでも三つ折りでも、順番は千円札からでも一万円札からでも。
自由というか、適当というか。
息子から贈られたものは、金属単体ではなく、革二つ折りの真ん中にクリップがついた、財布に近い形。僕には30歳若い日本のブランド物で、高かったろう。
でもなぜこの品物なのか、考えていてふと思った。彼は、自分の父親が「日本の風土に合わないもの」を好んで愛用していると誤解しているからではないかと。
ともあれ、それが誤解でも的中でも、相手を思って選んでくれたプレゼントを、これから末永く使わせていただこう。
初めて買ったシルバー925シリーズのマネークリップ
エルサ・ペレッティ・デザインのビーン・マネークリップ。可愛らしい。