岩波新書で、舘野之男著『放射線と健康』を読みました。2001年に刊行された本書の刊行当時、1934年生まれの著者は67歳。放射線医学総合研究所の客員研究員という肩書きから判断して、おそらく同所に長く勤めた方で、放射線医学の第一人者という立場なのでしょう。表紙カバーには、次のような文章が掲載されており、これが本書の性格を一番的確に表しているものと思います。
本書は、1974年の前著『放射線と人間~医学の立場から』の全面改訂版だそうです。「まえがき」において、著者は、かつての常識とは反対に、「普通のX線検査で奇形児が生まれることはない」という立場は、現在では「議論の余地のない定説」であり、X線検査を理由にした妊娠中絶は何とかして防がなくてはならないと述べており、このあたりが改訂の強い動機になっているようです。もちろん、福島原発事故などは想定されておりませんが、放射線が健康に与える影響について、わかりやすく解説しています。本書の構成は次のとおり。
第1章では、放射線の発見以後の歴史を概観し、放射線の種類と性質を解説します。
第2章では、目に見えない放射線の量を測ることの意義と困難を説明した上で、国際的な単位、ベクレル(Bq)やシーベルト(Sv)などを説明します。
第3章では、1950年代、60年代の核実験に由来する放射性物質の降下(フォールアウト)を調べた結果から、人体内の放射能の年代による推移を示している点が興味深いところです。宇宙線由来の炭素14はβ線しか出さず、人体からのサンプル採取が困難ですが、体内のセシウム137は天然には存在せずγ線を出すので、ホールボディカウンタで測定可能です。Cs137の健康な成人男子の人体内の推移について、内山正史のデータから、
のように述べています。
さらに、チェルノブイリ原発事故の影響についても、事故直前の1986年2月の22ベクレルという値が、4月26日の事故発生以後、5月第4週に30ベクレルに増加し、翌年5月には平均60ベクレルに達して、3年後にはもとに戻ったことが示されます。(p.64)
なるほど、暫定規制値の500ベクレルという数値がどのようなレベルなのか、参考になります。
ただし、体内には、例えばカリウムが体重あたり0.2%程度含まれますから、体重が60kgの人の場合、60×1000(g)×0.2×1/100=120(g) 含まれることになります。うち98%が細胞内に存在し、その量は 120(g)×0.98=117.6(g) すなわち、約118gということになります。カリウムは陽イオンの形で存在し、細胞膜の内外でナトリウム・イオンと濃度バランスをとることで、各種の細胞活動の調節に役立つ元素です。
一方、天然のカリウムには、カリウム40という放射性同位体が 0.0118%だけ含まれています。私たちの体を作る細胞内には、体重1kgあたり2gのカリウムが含まれるので、その0.0118%、つまり 2(g)×0.0118×1/100=0.000236(g) の放射性カリウムが含まれ、その放射能は約60ベクレルになるそうです。体重が60kgの人ならその60倍ですから、0.000236(g)×60=0.01416(g) つまり 0.0142g のカリウム40が含まれ、その放射能としては、60×60=3600(Bq) ということになります。(p.68)
放医研で測った、著者の1998年1月の体内放射能測定の結果は、
とのことですので、おおむねそんなところでしょう。これが、通常の内部被曝ということになります。

この項、さらに続きます。
検査や医療などで放射線を浴びる機会はますます多くなっている。また原発事故や医療事故のニュースは後を絶たない。被曝による傷害やがんのリスクはどのくらいあるのだろうか。遺伝への影響も気にかかる。安心して医療を受け、日常生活を送れるように、目に見えない放射線の実体や身体・環境への影響、さまざまな単位をやさしく解説する。
本書は、1974年の前著『放射線と人間~医学の立場から』の全面改訂版だそうです。「まえがき」において、著者は、かつての常識とは反対に、「普通のX線検査で奇形児が生まれることはない」という立場は、現在では「議論の余地のない定説」であり、X線検査を理由にした妊娠中絶は何とかして防がなくてはならないと述べており、このあたりが改訂の強い動機になっているようです。もちろん、福島原発事故などは想定されておりませんが、放射線が健康に与える影響について、わかりやすく解説しています。本書の構成は次のとおり。
第1章 放射線とはなにか
第2章 放射線の量を測る
第3章 日常の放射線
第4章 放射線障害
第5章 遺伝影響と発がん
第6章 放射線障害から見た医療
第1章では、放射線の発見以後の歴史を概観し、放射線の種類と性質を解説します。
第2章では、目に見えない放射線の量を測ることの意義と困難を説明した上で、国際的な単位、ベクレル(Bq)やシーベルト(Sv)などを説明します。
第3章では、1950年代、60年代の核実験に由来する放射性物質の降下(フォールアウト)を調べた結果から、人体内の放射能の年代による推移を示している点が興味深いところです。宇宙線由来の炭素14はβ線しか出さず、人体からのサンプル採取が困難ですが、体内のセシウム137は天然には存在せずγ線を出すので、ホールボディカウンタで測定可能です。Cs137の健康な成人男子の人体内の推移について、内山正史のデータから、
セシウム137体内量は1963年の測定開始時にはすでに上昇しており、引き続いて上昇を続けて1964年10月に最大値、約600ベクレルに達した。その後は時間の経過につれて急速に減少し、1968年末には約70ベクレルとなった。
1970年から体内量は微増傾向に転じ、1971年前半には、1968年初めのレベルに戻った。これは1967年から1970年まで中国が毎年おこなった3メガトン級の大気圏内核実験によってセシウム137が補給されたためである。1973年には2.5メガトン、1976年に4メガトンの核実験が大気圏内で実施された。この期間、体内量は30ー50ベクレルを維持している。
大気圏内核実験は1980年10月の中国の実験を最後におこなわれなくなった。それにつれて体内量も減少を続け、1986年2月には22ベクレルとなった。(p.63-64)
のように述べています。
さらに、チェルノブイリ原発事故の影響についても、事故直前の1986年2月の22ベクレルという値が、4月26日の事故発生以後、5月第4週に30ベクレルに増加し、翌年5月には平均60ベクレルに達して、3年後にはもとに戻ったことが示されます。(p.64)
なるほど、暫定規制値の500ベクレルという数値がどのようなレベルなのか、参考になります。
ただし、体内には、例えばカリウムが体重あたり0.2%程度含まれますから、体重が60kgの人の場合、60×1000(g)×0.2×1/100=120(g) 含まれることになります。うち98%が細胞内に存在し、その量は 120(g)×0.98=117.6(g) すなわち、約118gということになります。カリウムは陽イオンの形で存在し、細胞膜の内外でナトリウム・イオンと濃度バランスをとることで、各種の細胞活動の調節に役立つ元素です。
一方、天然のカリウムには、カリウム40という放射性同位体が 0.0118%だけ含まれています。私たちの体を作る細胞内には、体重1kgあたり2gのカリウムが含まれるので、その0.0118%、つまり 2(g)×0.0118×1/100=0.000236(g) の放射性カリウムが含まれ、その放射能は約60ベクレルになるそうです。体重が60kgの人ならその60倍ですから、0.000236(g)×60=0.01416(g) つまり 0.0142g のカリウム40が含まれ、その放射能としては、60×60=3600(Bq) ということになります。(p.68)
放医研で測った、著者の1998年1月の体内放射能測定の結果は、
セシウム137 22.4ベクレル (0.002μSv/日)
カリウム40 3740ベクレル (0.46μSv/日)
その他の核種 検出されず
とのことですので、おおむねそんなところでしょう。これが、通常の内部被曝ということになります。

この項、さらに続きます。