電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

高橋義夫『元禄秘曲』を読む

2013年12月02日 06時02分18秒 | 読書
高橋義夫著『元禄秘曲』を読みました。著者は、出羽国(山形県)と思われる土地を舞台とした時代小説をたくさん発表(*1)していますが、本書は江戸を舞台とするという点で、正統派(^o^;)に属する時代小説です。

主人公の花房百助は、本所の石川礫斎の道場の内弟子となり、剣術修行中です。叔父の友二郎は、剣術に出精し江戸の若手で三本指に入ると評判をとりましたが、理由不明のまま家を出て虚無僧となっています。石川礫斎の道場と同じ町内に住む神尾行蔵には、美人と評判の高い鈴という妹がおり、礫斎は百助に、鈴と一緒になって道場を継いでほしいという希望を持っています。ところが百助のほうはいたって硬派というか、鈴については好意を持っているけれど、自分の知らぬ所で話が進むのを嫌います。

たまたま縁のあった男が、女敵を追う身の上だったことから、本所の榊原市之進という悪徳旗本の中間部屋に住む拗ね者たちと対立することになります。石川道場の大天狗・小天狗と異名をとる、百助の兄弟子の古木要蔵の背後に、なにやら怪しい女と、さらに怪しい影がちらつきます。そういえば、師匠の石川礫斎と要蔵とは、かつて堀田筑前守への刃傷事件に関わり処分された藩に、ともに使えていたのだとのこと。なにやら背後にはさらに裏の事情がひそんでいるようなのです。火盗改めに就任した「のっそり十郎」こと能勢惣十郎が、海坊主の斧吉などを動かしているらしい。不穏な動きの渦中にあって、百助はまっすぐに自分の流儀を貫いていきます。どうやら鈴さんも、そのほうが嬉しいようです(^o^)/



作者お得意の、男子校的蛮カラ主人公が登場するという点では、『花輪大八湯守り日記』シリーズと共通点があります。ただし、『湯けむり浄土』『若草姫』等が山形県の肘折温泉を主な舞台にしているのとは異なり、舞台が江戸であるだけに、中央政界に近い分だけ陰謀もスケールが大きいようです(^o^)/

それはさておき、肩の凝らない良質の時代劇エンターテインメントです。

(*1):例えば、『ご隠居忍法』シリーズは笹野藩(米沢市?)、『鬼悠市風信帖』シリーズは松ヶ岡藩(鶴岡市?)、『花輪大八湯守り日記』シリーズは肘折温泉(大蔵村)、直木賞受賞作『狼奉行』は羽州上山藩(上山市)、『風魔山岳党』は最上義光の時代の山形、という具合。

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