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断捨離が大詰だが、録画した多くのVTRやカセットテープの類が山ほどあり、それらを処分する。そうしたら13畳の部屋が広くなってきた。でもまだ終らない。かわいい18歳のお嬢さんが手伝ってくれるので、できる。この間全く手をつけていなかった事実に自己嫌悪しながら「しかたなかったのよ」と弁解したりしている。BOOK OFFに持っていった本は1000円にもならなかった。他の機関に寄付しょうと言ったのだけど、可愛いお嬢さんは処分してくれるからいいのよ、とニンマリしている。そんなもんですか?おかげで部屋には空間ができた。
ところで嬉しかったのはジョイスのダブリナーズが出てきたことだ。20代の頃に読んだ本で、15本の短編で成り立っている小説集でダブリンの街の住人たちの物語である。あの頃はこんな小説を書いてみたいと思っていたりした。沖縄の閉塞感とダブリンの閉塞感にどことなく似通った色合いや空気を感じていたからなのかもしれない。この短編小説集の最後の物語がThe Dead(死者たち)である。それがとことなく祖霊を身近に感じる沖縄の風俗習慣にも近いと感じていた。深い無常感がそこにはあふれている。ただ大分汚されたペパーバックだが、また繰り返し読むには時間がかかる。以前赤い色鉛筆で線が引かれた文章をチラリズムで追いかける。
The air of the room chilled his shoulders. He stretched himself cautiously along under the sheets and lay down beside his wife. One by one, they were all becoming shades. Better pass boldly into that other world in the full glory of some passion than fade and wither dismally with age.He thought of how she who lay beside him had locked in her herart for so many years that image of her lover's eyes when he had told her that he did not wish to live.
最後の文章は
His soul swooned slowly as he heard the snow falling faintly through the universe and faintly falling, like the descent of their end, upon all the living and the dead.
ひとりひとり彼らは全て影《死霊》になっていった。愛する妻が語った恋人の話、彼は彼女のため若くして死んだのだった。生きたくはないと言った若者の瞳を胸に抱き続けていた妻ー。彼の魂はゆっくりめまいを覚えた。雪がゆらめき落ちてくるのを聞いたのだ。
夫と妻、それぞれの思いの中の記憶が密やかに沁みこんでくる夜、雪が降ってくる。死者たちが生者に優るモメントが確かにあるのだ。
ダブリン市民に対して那覇市民の題は何となくしっくりこないね。多くの移民を出した島の民人の人生はまた彩り鮮やか、で、いつも輝けるこの世の出世街道を歩く方々より地味ながらシコシコ生きている者たちに黄緑色の淡い色を感じる。アイルランドもまた多くの移民を出した島だった。
一度だけ行ったことがある。先の大戦で空襲を受けていない街だったゆえか街そのものは綺麗に感じた。少し街の奥に入るとガラスなどが割られた建物があったりでまさに1980年の顔は荒びも感じさせた街だった。貧しい白人を意識させられた国でもあった。あの当時米軍基地の米兵の暮らしは眩しかった沖縄である。
ダブリンの街にあるトリニティー大学が一つの目的でもあった。一度はジョイスやイエイツの出身大学を訪問したかったのかもしれない。入学を拒絶された大学をUSに飛ぶ前に見届けておきたいという妙な切迫感にかられていたあの頃である。