Prime Videoをここ3~4ヶ月全く観ていない。メールで新作などの紹介がくるので、思い切ってメニューを見たらサスペンスドラマ『怪物』が目に入った。クリックしてみると、なんと16話が並んでいた。まったく予備知識なく見ていたが惹き込まれて結末まで見るのにかなり時間がかかった。30時間ほど~。眼が痛くなり、目薬を入れながら最後まで見終えた!心理サスペンスになっている。殺人事件と、誰が殺人犯かを追及するのがサスペンスドラマのメインだが、中身は複雑に絡み合い、予想通りに権力のトップ、警察庁長官の過去の殺人事件をあぶり出す逆転劇へと展開していった。ある程度終わりが予測できる筋書にも見えた。家族や地域コミュニティーの人間関係、俗世の欲や知恵、野心や権力欲、一方で真実や正義を追及する二人の警部補の葛藤する姿がせまってきた。
ネットで検索すると、「2022年1月1日、Amazonプライムビデオにて全16話が配信されるやいなや、瞬く間に完走者が続出した韓国ドラマ「怪物」である。
韓国では2021年の2月から放送され、同年、韓国のゴールデングローブ賞とも言われている百想(ペクサン)芸術大賞で「作品賞」「脚本賞」「男性最優秀演技賞」を受賞し、見事3冠を達成、まさに歴史に名を刻んだ本格サスペンスドラマとして評判が高い。」と紹介されている。つまりPrime Videoで配信されたのはつい最近ということだと分かる。
韓国では2021年の2月から放送され、同年、韓国のゴールデングローブ賞とも言われている百想(ペクサン)芸術大賞で「作品賞」「脚本賞」「男性最優秀演技賞」を受賞し、見事3冠を達成、まさに歴史に名を刻んだ本格サスペンスドラマとして評判が高い。」と紹介されている。つまりPrime Videoで配信されたのはつい最近ということだと分かる。
あらすじ
エリート警察官のジュウォン(ヨ・ジング)は片田舎のマニャン派出所勤務を命じられる。パートナーを組むことになったのはドンシク(シン・ハギュン)。実はドンシクは20年前に妹を連続殺人事件で失い、その容疑者となった過去があった。そんな中マニャンで20年前と同じような猟奇殺人事件が発生。事件の捜査を始めるジュウォンだったが、かつての事件の資料が消えていたり、警察庁次長の父から捜査しないよう命じられる。町ぐるみで何かを隠しているのではと感じたジュウォン。実はジュウォンがマニャンにやってきたのはある理由があった。そして一方のドンシクも胸の内に秘密を抱えていた。ジュウォンとドンシクはお互いに疑いの目を向けながら共に事件を捜査することに。
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実在した連続殺人事件を遠景に、20年に及ぶ猟奇連続殺人事件の謎解きを通して韓国の社会の断面が切り取られている。ドラマの筋などはネットで紹介されているので割愛して、長時間のこのドラマに熱中できたのは、犯人探しもそうだが、メインキャラクターイ・ドンシク(シン・ハギュン)とハン・ジュウォン(ヨ・ジング)の演技の魅力と、彼らの対称的な性格や風貌、対象へ向き合い方だが、根っこにあるのは熱い真実の追及である。それぞれに孤独やトラウマを秘めている。
怪物という題名が意味深だ。個々に持っている生きる上での十字架のようなもの、それを地獄や怪物の二語のメタファーにこめている。怪物性は善悪両面を持っている。生命の根っこに潜んでいるもの、生きる上でのサバイバルの物語でもある。殺人に至る究極の悪意があり、思いがけない事故による殺人もある。犠牲になる女性たち、その家族の地獄の苦しみ、取り巻く社会の集団的損得も含め、怪物のような心象や行為が個や集団レベルでも貫かれているこの社会でもある。
ドラマの中で韓国の社会階層、格差社会、都市と農村の対比、女性たちのパワフルな個性と俗な部分、一方で犠牲になりやすい脆弱性が描かれる。社会正義を追求し、治安と安寧に奉仕する警察官という使命を担った物語である。極端に社会的犯罪を取り締まる機関の人間たちの物語でもあるが、殺人を犯す者たちの位相も二重、三重に描いている。疑心暗鬼は誰の心にも忍び込むものだろう。
殺された妹の失踪を追及する兄で、妹殺しの容疑者として検挙もされたことがあったイ・ドンシクが誰よりも妹の安否を気遣い、殺害されていたならば誰よりも犯人を憎んだはずだ。また数多い失踪者が存在する社会を変革したい情熱に燃えていたハン・ジュウォンであり自ら連続殺人事件を解決する強い意志を持って田舎の派出所への転勤を希望している。
権力に切り込んでいく物語であり、父と息子の物語、母と息子の物語でもある。腐敗への激しい嫌悪、怒りをハン・ジュウォンが体現している。大統領制共和国家のもつ斬新さと激しさの一面が浮かび上がる。
それにしてもメインキャラの周りの登場人物も表情や個性が際立っている。イケメン過ぎる警察官や美人すぎる焼肉店の店主ユ・ジェイ(チェ・ソンウン)も登場するが、韓国の役者の演技力はすごい。
ところで食事する場面が散りばめられ、韓国料理好きは嬉しいに違いない。このドラマの中で「人間が壊れていく」「おれは壊れている」のようなフレーズが何回か翻訳で登場する。また家族関係もこわれていく。社会病理としての犯罪と人間の精神なり心の領域の関係は大きいに違いない。慈しみ(愛しみ)も怪物も人間の内部に巣食っている。偶然と必然の因果関係も彩をなしている。もちろん政治・経済は生活そのものである。このサスペンスドラマで文化なり芸術の表出といえば料理や「鹿のスケッチ」だった。鹿は純粋な存在、自然の象徴とも取れる。鹿は殺された脆弱な犠牲者たち(女性たち)を暗示したのか。