枕元に老婆がいる、その後ろで子供たちが遊んでいる。
貧しい農家の娘の嫁入り、だが、気に入られないと実家に帰された、そうなるともう嫁に行くことはできなかった -足入れ婚ー 。
長い人生を一人で過ごし、やがて、さびしく死んでいった、こうした女性が東北の昔話しの語り手、これを書こうかどうしようか、ちょっとソフト過ぎるかな。
ずいぶん迷って、それでもなんとかまとめ、掲載された雑誌が届く、おばあさんが枕元に坐っていたのは、その晩だ、私のものがたりは、
「長い冬の夜
冷たい冬の夜
足が氷の棒になってしまいました
それでも
それでも
おばあさんは 若かったころを思い出しました
なんとか
なんとか
思い出したのです
少女のおばあさんは
竹のような若者に恋をしました
さわやかな若者に恋をしました
むねが高鳴り
ドクドクと血が流れ
なんてうれしかったことか
なんてたのしかったことか
おばあさんは ちょっとほほえみました
そして もう うごきませんでした
二度と二度と うごきませんでした 」
これでいいのか、これでいいのか、また非難されるか、
「もっと ハードに書かなけりゃあーね」
宗門のエリートは、
「仏教 やりたかったらなあー
学部から入ってこなけりゃあ ダメなんだよー」
「おめえなんか メザワリなんだ」
「・・・」
「おジャマムシなんだよー」
これでいい、これでいいんだ、いや、これがいい、論文でなくてもいい、いのちの通わぬ学者の世界でなくてもいい、わたしは、これを書いておきたいんだ。
おばあさん、イヤな感じはしなかった、何度も何度もアタマを下げる、その後ろで間引きされた子供たちが楽しそうに遊んでいる、やがて、闇の中に消えていった、
「夢だったのか」
いや、夢によって、ひとことお礼を言いにやってきたのだ、
「うれしかったんだ」
「うれしかったんだ」
青い瞳の日本人の背後には、もうひとつの、言うに言えないかなしみの、この国の歴史が隠されている。
An another world of Touhoku
I found the old woman sat beside me and the children were playing back to her .
I wrote the life of the woman of Touhoku , she was the daughter of the poor farmer .
She failed the marriage and had to live alone .
On the cold night of winter , she coudn't sleep , and she remembered the day when she was a girl .
Then , she loved a fine boy ,
" How happy I was ! "
" I was young and full of pleasure ."
I hesitated to write or not , my fellow said ,
" It is not the thesis ."
But I wrote it , the magazine reached to my home and I read it , the old woman bowed many times with a little smiling .
It was only dream , but I thought ,
" She wanted to say thanks to me through the dream ."