研能会のあと、休む間もなく連日舞台に出演している ぬえです~。
ことに今週末には師匠のお弟子さんの発表会が迫っていまして、出演されるお弟子さまのお稽古のお付き合いや申合なども頻繁に重なる1週間なのでした。これがまた、ぬえはこの発表会で師匠のお弟子さまの一人が出演される素謡の『当麻』でツレのお役を頂いておりまして、研能会の翌日はこのお弟子さんのお稽古にお付き合い申し上げておりました。
『当麻』のツレというのは。。謡う箇所が膨大で、しかも難解。研能会で『山姥』を勤めたその翌日に、はてさて1箇所も間違わずに謡うことができるのかっ!? と恐れをなしていましたが、終演後に猛勉強して(正確に言えば終演後は終電過ぎまで飲んでいたので、タクシーで帰宅してから、ですが。。)、翌日のお稽古では何とか間違えることなく、師匠のお弟子さまのお相手を勤めることができました。あ~よかった。。って、これで気を抜くと本番で間違えるから用心、用心。そんで、今日はその発表会の申合、明日は東京囃子科協議会の催しで師匠が勤められる舞囃子『富士太鼓』の地謡を勤めて参ります。
囃子、といえば、ぬえの『山姥』でもアクシデントがありました。お囃子方のお一人が、本番の2日前に行われた『山姥』の申合のあとに急に体調を崩されて出演不能になり、本番では別の囃子方が代役してくれたのです。公演前日にご本人から出演不能というお知らせのお電話を頂いて ぬえはびっくりしたけれども、その丁重なお詫びのお言葉にこちらが恐縮してしまいました。体調不良であれば不可抗力なのに、ご本人は病身をおしてご宗家に代役を立てる相談をされ、それが決まるや、申合でシテ(つまり→ぬえ)がどのように演じていたか(=それに対してどのように囃すべきか)を代役の人に自分の口から伝えるべく努力しておられました。
結局代役に立ったのは若手の人だったのですが、彼はぬえも大変信頼しているし気心も知れている方で、これを知って ぬえも安心することができました。ところがそのうえ、当日の楽屋には代役の本人だけでなくお流儀の若宗家までもがほかの舞台への出演の合間を縫って同伴され(ぬえはもう装束を着けて出演準備が整う頃だったのでお目には掛かりませんでしたが)、ぬえの師匠に代役を立てた事のお詫びをされたのだそうです。ぬえふぜいのお相手なのに、お流儀をあげてこんなに気を遣って下さって。。お舞台を勤める、お役を頂く、ということに対して、本当に強い責任感を持って臨まれているのですね。。ぬえも頭が下がりましたし、信頼して舞台を勤める事ができました。
さて話は変わって、巻頭の画像は ぬえ所蔵の「山姥」の面です。稽古や申合でもこの面を掛けて勤めたのですが、先輩からも好評を頂きました。殊にこの面は眼の金具の金が光っていて、それは瞳の部分の内径が小さいからで、それはつまりシテの視界がやや狭くなってしまう事を意味するのですが、その輝きは効果的だったようです。ただ。。ちょっとまとまり過ぎ。。整いすぎているかなあ、とも ぬえは思って、今回はこれは使わずに師家の友閑作の面を拝借しました。こちらはなんと眼が金具ではなく金泥彩色で、また表情もややおだやかですが、少し彩色にも剥落もあって、それがまた何とも言えない迫力がある面でしたね。
またお装束も ぬえ、ずっと以前から狙っていた師家所蔵のものを、ことごとく拝借する事ができました。前シテの唐織は「黒船文様」と言い習わしているものです。深い紺地に緞子風の細かい横縞の文様が織り出された唐織で、こういうキツイ性格の無紅のシテに良く似合う装束です。なぜこの文様を「黒船」と言うのか。。不勉強な ぬえは知りませんが。。
後シテはかなり細かい山道の地紋の上に火焔太鼓を散らした段の厚板。ぬえの師家ではこの厚板を『山姥』に用いたことはなかったので、師匠もちょっと意外そうな顔をされていましたが、ぬえは金茶の糸が多用されているこの厚板が金地に近いように見えるのを狙ったのですが、意外に舞台では白っぽく見えたのだそうです。半切は紺地で、風になびく大竹の文様。これは山姥にはもってこいでしょう。。と言っても、これは師匠がずいぶん以前に国立能楽堂の定例公演で『山姥』を勤められた際に使われて、その時の印象が ぬえに色濃く残っていたから拝借をお願いしたのですが。。
ぬえの師家では申合が終わった段階で装束を合わせるのが慣例です。この申合の日は研能会の理事会が開かれる日でもあったので、あまり装束合わせの時間がありませんで、殊に師匠が勤められた『松風』の装束が すでにこの日以前にすべて決められてあったのを発見して、ぬえは ひょっとしたら。。すでに師匠は ぬえの『山姥』の装束も、すべて決めておられるのかな。。? と思いました。。 でも師匠は「お前は装束はどうしたいんだ?」と聞いて下さった。「はい、前シテの唐織はこれで、後シテの厚板はこれ、半切はこれを拝借させて頂いてもよろしいでしょうか。。」と、即答できた ぬえも ぬえだが、「コイツはどうせ自分のビジョンをぶつけてくるに違いないヤツだし。。」と思われたのか、師匠も ぬえの考えを聞くまで判断を待っていて下さったのは、まことにありがたい事でした。。