ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

第14次支援活動<気仙沼>(その5)~東新城オレンジ落成式典

2013-06-23 00:10:00 | 能楽の心と癒しプロジェクト
そうこうしているうちに式典の開始が近づいています。ぬえには式典会場とは反対側。。入口を入って右奥の部屋を控室にご用意頂きました。今日は装束がないので紋付と裃を着るだけなので、ま、10分もかかりません。とはいえ出演は開式宣言よりも前、式典の冒頭ということでしたので、何か不都合が起こるかもわからないし、30分前には着替えを完了。。そこでハッと気づきました。この日の上演の曲目『高砂』くらいは伝えていたと思うけれども、ぬえ自身やプロジェクトについて、はたまた上演曲目の『高砂』の内容は誰もお客さまに説明できないではないか。そこで急遽控室で司会の方に読んで頂く原稿を準備し始めました。

。。本当のことを言うと、『高砂』という曲はめでたいけれど、新築の建物のお祝いの場面では ふさわしくないんですよね。ここで舞われる「神舞」の調子。。「黄鐘調」は五行説になぞらえて「火」の調子、ということになっているのです。これに対して「水」の調子である「盤渉調」の方がこういう場面ではよろしいのですけれども、「盤渉調」は他面、陰の調子で、生命よりは「死」をイメージする調子で、「黄鐘調」はその逆。こういうわけで『融』や『海士』が追善の場合に演じられるのは、まずはこれらの曲が亡き人の追福や追悼の気持ちをストーリーの中や詞章に持っていることと、それから「盤渉調」の「早舞」を舞うことが理由になっています。

「めでたさ」が本質である『高砂』をはじめ神能では、こうしたわけで「盤渉調」の舞を舞うことはないのですが、これは「黄鐘調」の舞そのものが、ある種生命力を表しているから。「火」もその意味では燃えさかる生命の象徴のようなものなのかもしれませんが、一方、新築のおうちに対しては火災のイメージもあります。要するに東洋の音楽理論で考える「めでたい場面」での上演に、新築のお祝いは矛盾を生じてしまうのです。

もちろんこうした齟齬を解消する手段もないわけではなくて、『高砂』などの神能のシテが舞う「神舞」を、あえて「盤渉調」で演奏する「盤渉神舞」というものがあるのだそうです。江戸期など将軍さまやお殿様の御殿や城が新築されたときなど、なるほど「火」の調子で能を演じることはできないでしょう。とはいえ、これはそのような特殊な事情がある場合のことで、ぬえは現代において「盤渉神舞」の実演には一度も接したことがありません。舞い方も ぬえは存じませんが、実際には「盤渉神舞」は重い習いであったり、常にはない約束事もあるのでしょう。

こういう問題もないわけではないのですが、まあ音楽理論としての意味づけをよくよく考えれば気になる、ということで、実演上は このようなめでたい式典には『高砂』はよく似合います。解説では若い男神が颯爽と祝福の舞を舞う、という『高砂』の本質的な意味と見どころを書いておきました。

裃を着て、午前11時に式典の開始。ぬえは本当にその冒頭、開式宣言の前に舞うことになっていました。まず邪気を払い、場を清めてから、というお考えは、能の上演の意味をよく理解しておられると思います。ぬえも滞りなく勤めさせて頂き、さて控室に戻るとすぐにカメラを持ってこの記念すべき式典を撮影。



気仙沼市や宮城県の来賓の方のご挨拶が続き。。こちらは気仙沼市長の菅原さん。



次は「東新城オレンジ」建設の支援者、施工業者さんなどにオレンジに在籍する児童「キッズ」や「エッグ」(年齢や進歩に応じて分けられています)から感謝状が手渡されました。





そうしてついに! くす玉が割られました。
「キッズ」や「エッグ」たちみんなで歌を歌い。。



最後は美厚さんのご挨拶で、無事に落成式がお開きになりました~~