大自然の中の温泉に浸かってくつろぐ時間は至福のときである。特に旅先で尋ねながらその場所を発見する喜びは格別だ。アメリカの温泉には魅せられた。訪れた場所は十数カ所。その殆どが大自然をバックにした露天温泉であった。温泉の大部分は、南北に走るロッキー山脈を挟んで東西の各州に分布している。多い順に、カリフォルニア、コロラド、ニュー・メキシコ、ユタ、ワイオミング、オレゴン、アイオワなどである。数は少ないが東側のアパラチャ山脈系ではウエスト・ヴァージニア、ノース・カロライナ、飛び石的にアーカンソーだろうか。
以上のうち、コロラド州にはよく足を運んだ。秋、マツタケ採りのついでに温泉を探し求めた。デンバーから車で三時間の温泉マウント・プリンストンでは静寂の中に響く川瀬の単純な音を聞きながら青空と紅葉の木々を背景に、川淵に寝転がって浸かる。山間の渓流の一部が温泉だった。河原の石を片付けて人が入れる場所を作ったもので、場所によってはジャリが尻に食い込んで痛かったが大自然を見上げて川の中に寝転ぶのだから風流さはこの上もなかった。
ポンチョ・スプリングからほど近い場所に週末のみ会員制の温泉があった。山の斜面全体が温泉地域として使われており、水着着用は自由。男女の先客にならって水着なしで入浴した。池のような温泉で、淵の至るところからお湯が湧いており、石を積み上げて入浴槽にしていた。溢れるお湯は川として流れ、その下流にも貯め槽が出来ていてぬるめのお湯を好む人が入っていた。山肌のあちこちに大小の温泉池が散らばっており、思い思いの場所にカップルやグループで入浴したり、浴槽の淵に上がったりして、読書やお喋りを楽しんでいた。彼、彼女らは丸裸であり、日本のように風呂に手ぬぐいを持ち込む習慣がないから丸見えであった。
このように大自然をバックにした露天温泉が州内に散らばっており、それぞれに特徴がある。川べりに湧く温泉は川の水量で加減されるので温度はまちまち、プールの底は砂かジャリ、谷川温泉の場合は穴ぼこの低い側に石を積んで流れを防ぎ小池のようにしたものなど、自然と調和して作られた温泉がほとんどであった。山腹の溜まり温泉には鹿の糞が浮いていた。昨年アイダホ州で訪れた温泉も朝方浸かった時は虫の死骸が湯面に浮いていた。天然の風情と感じたが日本人の多くはどう思うかな。水着で入浴する習慣は賑やかな温泉地であり田舎の方に行けば水着はオプション。田舎道を運転中、小さな温泉案内板を見かけるが、場当たり的に地元の人に尋ねるのも面白い。
アメリカ人も健康浴として、また家族連れでレジャーとしての活用が多いようだ。総じて静かにお湯に浸かっていた。温泉で身体を洗う習慣がないので洗い場も石鹸もなく浴槽やその周辺が自然のままかそれに近い状態である。どこかの国の人たちのように、ドンチャン騒ぎをするために行くのと訳が違うので、その周囲がネオンに輝くことはありえない。皆さんもアメリカの温泉にドウゾ!(自悠人)