「腐っても鯛」と言うように鯛は昔から目出度い時のご馳走である。勿論、見かけもいいし美味しい。鯛が美味しいのは鱗で覆われて光沢があり、明るいピンクの色調が高級感と品性を訴えるからだ。ところが料理には鱗とりが待っていてこれが難題だ。通常は調理済の姿焼きや刺身を食べるので「鱗取り」はご存知無いかもしれない。
筆者は先日80歳で初めて鱗とりに挑戦した。毎年正月には焼き鯛を買っていた。調理済みの鯛は季節で売られるものだから自分でやるしかなかった。鯛をまな板に載せ、包丁を垂直に立て鱗を“こさげる”のだが、しっかりくっ付いていて中々取れない。頭に近づくに従って鱗片が大きくなり、更にしつこく、力が必要だ。慣れるに従って要領を得てくるが、6匹を取るのに48分かかった。それから腸抜きして塩をするのだから大変な作業だ。二度とやりたくない仕事だった。
現代は魚は切り身や既製料理で売っており一般には調理の必要はない。出刃庖丁もない家庭が多いだろうが我が家は山陰出身なの出刃庖丁その他多種の包丁があり、ワイフが魚料理も出来るのでその気になったのだ。余談だが玄人は鱗取り専用の器具で処理するから簡単、勿論飛び散らないように魚をヴィニールで囲ってやるという。そう言えば鱗が四方八方に散って掃除も大変だった。が、嬉しかったのは一昨日、81歳の誕生日に、5人のゲストがものも言わずに食べてくれたことだ。珍味だったのだろう。残渣は「猫も跨いで通る」ほど、きれいだった。(自悠人)