第214回 2019年1月29日 「千年受け継ぐ 優美な木工~京都・京指物~」リサーチャー: 安田美沙子
番組内容
京都。観光客をもてなす「木のぐい飲み」が人気だ。凜とした円柱形に、美しい木目。日本酒を注ぐと、ふわりと杉の香りが立ち上る。木と木を巧みに差し合わせた木製品は「京指物」と呼ばれ、その歴史は平安時代にさかのぼる。伝統の茶道具に隠された、粋なデザインの秘密。桐箱のフタに、多種多様な木片から花模様を描くワザも紹介。技術と美意識を受け継ぎ、挑戦を続ける職人たちに、安田美沙子が迫る。
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201901291930001301000 より
1.「吉野杉ぐい呑」(桶屋近藤・近藤太一さん)
京都紫野の大徳寺近くにある工房「桶屋近藤」を構える近藤太一さんは、桶を専門に作る桶職人で、全ての工程を一人で行っています。
近藤さんは、京都精華大学から大学院まで進んで、修了後は大阪芸術大学に勤務していました。
任期終了後に、中川木工芸の3代目の中川周士さんに「手伝いに来い!」と言われ、その時に見た「木工芸」の人間国宝・中川清司さんの仕事ぶりに痺れ、師事。
職人として桶や樽の製造技術を学びました。
その時、近藤さんは既に29歳。
職人としては非常に遅いスタートだったので、必死になって仕事に打ち込んだそうです。
平成21(2009)年に独立して、工房「桶屋近藤」を創業。
平成28(2016)年には「京指物 伝統工芸士」に認定されています。
近藤さんはの作る桶は、清々しい凜とした姿と国産の良質な杉、椹などの木目の美しさが特徴です。
その桶の技術を使って現代の暮らしに落とし込んで作った「木のぐい吞み」が人気です。
材料は奈良の「吉野杉」。
木目が美しく、江戸時代から酒樽などに用いられてきました。
日本酒を注ぐと、ふわりと吉野杉の木の香りが立ち上ります。
作り方を見せていただきました。
まずは、吉野杉を丸みのついた鎌で割って、アーチ状の木のピースを作ります。
これを組み合わせて円柱にしていくために、鉋(かんな)で緻密に整えていきます。
この時「正直型」という道具を使って、型と木のピースが隙間なくピッタリ合うように、少し削っては型に当て、正確な角度に調整していきます。
この部分の角度が揃っていないと水が漏れたり、強度が下がってしまうため、光に透かしながら、光を漏らさないように削り合わせます。
「正直型」は桶のサイズに合わせて手作りした定規です。
円の中心に角度を合わせて、木のピースの側面を削る角度を定めた道具です。
「”正直を押す”と言います。正直者の正直。
横の角度を正確に合わせないとキレイな円にならない。
ですから、正直にやらないと正確な桶が出来ないよって言います。」
八枚から十枚を組み合わせてキレイな円柱になったら、接着剤でしっかり固定して、一晩乾燥させます。
パーツの繋ぎ目を削って美しく仕上げていきます。
そして、飲み口から底にかけて、緩やかに厚みを変えていくために、たくさんの工具を使って正確に削っていきます。
直接口が当たる飲み口は柔らかに薄く、底は分厚くすることで強度を持たせています。
外側を削るには、丸みのある、通称「外カンナ」を使います。
内側を削るには、「外カンナ」とは逆向きに膨らんだカーブがついた「内カンナ」を使います。
7種類ものカンナを駆使して10分程削って、美しい曲線が浮かび上がった、理想の形になりました。
桶の大きさや角度に合わせて沢山のカンナを使い分けなくてはならないため、近藤さんの仕事場には、壁に一杯に鉋が掛けてあります。
近藤さんは、先輩から譲り受けたり、古道具屋を回ったりして様々な鉋を集めていて、仕事に合うように改造しながら、使っているそうです。
次は、丸く切った底板をはめていく作業です。
専用の小さな鉋でサイズを調整したら、鉄の棒を取り出して、底板を力強く擦り始めました。
これは「木殺し」という作業です。
杉の木の繊維には空洞が多く、スポンジのような構造をしています。
圧力を加えることでこの空洞がギュッと圧縮され板がわずかに縮むので、底板をはめ込んでいきます。
そして最後に補強のため、タガをはめたら、完成です。
完成後に水につけると、元通りに杉板が膨らみ底板がピッタリと密着します。
丁寧な道具選びと、手仕事から生まれ美しい形。
杉の香りとともに職人の思いまで漂ってくる贅沢な一品です。
桶屋近藤 京都市北区紫野雲林院町64-2
2.桐箱(森木箱店・森久杜志さん)
京都では、茶の湯に使う陶芸品を入れるために「桐箱」作りが発展しました。
茶碗などを入れる「桐箱」の無駄のない美しさは、簡素さを尊ぶ茶道の世界で愛されたのです。
そして、紐を掛けて”ふたがき”をした「桐箱」の紐の種類だったり仕様を見るだけで、中に入ってる陶器だったりの値打ちが大体分かるため、「桐箱」は入れ物として重要でした。
因みに「木箱」を重んじる文化があるのは、日本だけだそうです。
森久杜志さんは、創業100年以上になる森木箱店の4代目です。
美術大学で陶芸を学んだ後、1年間釉薬の勉強を行ない、修行に入る形で家業を継がれました。
プロとして小手先ではなく、10年以上体で覚えた「桐箱」作りで、伝統を受け継いでいらっしゃいます。
「桐箱」作り伝統の技を拝見しました。
まず板を丁寧に削り落とし、箱の形に組み立てていきます。
この時、凹凸を組み合わせて木を木に指し込むため、「指物」と言うのだそうです。
釘として使うのも木で、金属は一切使いません。
「釘などの金具を使うと、 そこが錆びて腐食して木を傷めたりするので、 却って木で作る方が丈夫で長持ちする」
箱の形に組み立ててからが、桐箱職人の本領発揮。
蓋に「天盛り」という丸みを施していきます。
「天盛り」は、厚めの材を用いて蓋の表面を削り出し、四方に盛り上げたものです。
職人によって形が違ういわばトレードマーク。
薄く静かな美しい曲線は、職人の腕の見せ所です。
「てっぺんを頂点にして、丸く仕上げていくことによって 触った感じでほんわりとなるように仕上げていきます」
森さんは蓋の上から2㎜のところにラインを引くと、鉋で勢いよく削り始めました。
そして、理想の丸みを求め、何度も触り心地を確認します。
30分後、奥ゆかしい、触って初めて丸みが分かるという優しいカーブです。
完成した天盛りに平らな板を乗せると、両端がかすかに浮いています。
その幅は僅か2㎜です。
時を超え愛され続ける京都の桐箱。
釘を使わず仕上げた、柔らかい風合いから職人の矜持が覗く逸品です。
森木箱店 京都市山科区川田清水焼団地町4-1
3.木彫刻(彫刻工房 小谷・小谷純子さん)
今、女性達の間で可愛いと評判の桐箱があります。
優雅な模様が流れるように側面まで。
よく見ると花びらや葉の全てが木を組み合わせて作ってあります。
作ったのは、小谷純子さん。
「京指物」の伝統工芸士でただ一人の女性の職人さんです。
細やかな彫刻や象嵌の技法で文箱やブローチ、手鏡などを作っていらっしゃいます。
小谷さんは、元々コンピューター関係の職に就いたのですが、ハードワークで体を壊したことがきっかけで、自分のペースで長く続けられる仕事をしようと、京都伝統工芸専門校(現:京都伝統工芸大学校)に入学し、木彫刻を学びました。
卒業後は親方の下で8年間修行した後、独立し、現在は自宅を工房として活動しています。
茶道具や仏壇関係の仕事が多いそうですが、その合間に展示会用の作品等オリジナルの作品も製作しています。
中でも代表作が花模様の桐箱です。
作り方を拝見しました。
家具や建築の仕上げに使われる薄くスライスし、その裏には紙を貼って補強してある僅か0.5㎜の極薄のシートから小刀で、花びら、茎、花弁とパーツを切り抜いていきます。
桐箱の上に直接パーツを置いて位置を確認したら、大きさに合わせて輪郭線彫り、小さなノミで極薄のパーツと同じ0.5㎜分だけを彫り下げていきます。
そしたら先程のパーツを木肌にぴたりと埋め込んで、接着剤をつけて固定させます。
接着剤が乾くまでテープでしっかりと留めておきます。
15時間かけてパーツ70個が全て入りました。
最後に金でアクセントを付けて完成です。
素材や地色の違いでコントラストが際立ち、愛らしい小花がクッキリと姿を現しました。
伝統の桐箱をモダンに生まれ変わらせた可憐な木の花。
京指物に新たな風を吹かせる逸品です。
彫刻工房 小谷 京都府京都市南区西九条島町5-2
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Kyoto/Kyosashimono より
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