デカダンとラーニング!?
パソコンの勉強と、西洋絵画や廃墟趣味について思うこと。
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ギャルリ・ヴェロ=ドダ(10)
ひとりよがりな回想
/
2013-04-03 00:10:00
宵闇へ
ギャルリ・ヴェロ=ドダもギャルリ・ヴィヴィエンヌやギャルリ・コルベールと同様、盛り場の覇権がパレ・ロワイヤルからグラン・ブールヴァールへと移るとともに衰退したパサージュである。
またグラン・ブールヴァールの周囲にできたパサージュ・ジュフロワのような、鉄を用いる技術力が向上したことで鉄とガラスをふんだんに使って建てられた明るいパサージュが現れると、ギャルリ・ヴェロ=ドダは薄暗く換気も悪いと批難されるようになった。
ただ、ギャルリ・ヴェロ=ドダの衰退には別の要因も加わっている。
鉄道の歴史、特に蒸気機関車の歴史についてカール・カウツキー〔19―20世紀独のマルクス主義者。社会民主党の指導的理論家〕に重要な資料がある。『唯物論的歴史把握』第一巻、ベルリン、一九二七年、六四五ページ以下。鉄道にとって鉱山は重要な意味を持つことになるそれはそこではじめて蒸気機関が使われたというためばかりでなく、鉄軌道がそこで生まれたからである。軌道がもともとトロッコの移動のため(初めは木製であったらしいが)に使われたことに、起源が求められている。 [U5a,5]
一八四〇―一八四四年。「ティエールの発想による要塞の建築。……鉄道はけっして発達しないだろうと考えていたティエールは、駅の建設が必要であった時期のパリにいくつかの門を造らせた。」デュベック/デスプゼル『パリの歴史』パリ、一九二六年、三八六ページ [F3a,6]
「鉄道の客車は初めは駅馬車のような、バスは乗合馬車のような形だったし、電気の街灯はガス式シャンデリアに似ているし、ガス式シャンデリアは石油ランプのような形だった。」レオン・ピエール=カン「映画の意味」(『映画芸術』二巻、パリ、一九二七年、七ページ) [F7,3]
鉄道が歴史上に残した刻印は、それが最初の――そして外洋航路に使われた大きな蒸気船を除いてはおそらく最終的な――大衆をまとめて運ぶ交通機関であるということである。郵便馬車も、自動車も、飛行機も小さなグループの旅行者を運ぶにすぎない。 [U18,5]
ギャルリ・ヴェロ=ドダには乗合馬車の発着場がパサージュのすぐ傍にあったことが繁栄の要因であったが、別のそれも強力な移動手段である鉄道が発達すると、乗合馬車の発着場があるという立地条件のよさはそのまま立地条件の悪さになってしまった。鉄道の登場とともに長距離乗合馬車を利用する人が少なくなっていき、乗合馬車の発着場への人の流れは鉄道の駅に向いてしまったのである。パリの鉄道が全盛を極めだすのは1870年以降だが、蒸気機関車の牽引による旅客の輸送の試みは1831年に始まっており、それから十数年の間にテオフィル・ゴーティエが、
「人類の大聖堂、魅惑の場所、諸国民の出会いの地点、すべてが集中する中心地、地の果てまで広がる鉄の輝きを持つ巨大な星々の核」
アルフレッド・フィエロ『パリ歴史事典』(白水社)
と形容した六つの鉄道路線の起点の駅がパリの都市組織に移植されているのだ。
最初の鉄骨建築は通過的/仮説的(トランジトーリッシュ)目的のためであった。つまり、市場、駅、博覧会場に使われた。つまり、鉄は経済生活における機能的な要素とすぐさま結びついたのである。だが、当時において機能的かつ一時的(トランジトーリッシュ)であったものが、今日では時代のテンポが早まったために本格的で恒常的なものという印象を与えはじめている。 [F2,9]
ベンヤミン『パサージュ論』(岩波現代文庫)
経済生活における機能的な要素は鉄道駅にもパサージュにも見られるが、あたかも現役をしりぞき化石となったイメージを覚えさせるパサージュと、今も現役で化石と言うには抵抗があるパリの鉄道の駅は、技術のテンポが芸術に追いついていない頃の鉄でつくられているという共通点はあるものの、急速に衰退したものと今なお恒常的なものとに運命を違えてしまうというのは、人類の技術の発展や、時代、経済活動というものを考えさせるうえで、格好の材料になるように思える。速さの代名詞である鉄道の登場、その力はあまりにも強いのだ。その力が強いからこそ、今なお残っている一時的な鉄骨建築スタイルの駅でも人は文句を言わないのである。そこに落魄めいたものはない。
ブロワ通り。この画像の方が馬車の
発着場があったことのイメージに近い?
しかし、パサージュにとって人の流れが途絶えてしまうことはパサージュの衰退を意味したのであった。いくらなんでも、鉄道の駅をパサージュの傍に誘導することはできないのだ。ギャルリ・ヴェロ=ドダは、人の流れが途絶えてしまうとやっていけない業種のテナントがすべて撤退し、不景気でも営業できる業種がテナントに入るようになる。そしてパサージュは奇跡的にも、150年以上もの間、改装をほどこされず、時が経過して落魄した姿を今日に伝えてくれている。
何度も繰り返すようだが、投機で儲けたブルジョワが建てたギャルリ・ヴェロ=ドダは、近くに盛り場パレ・ロワイヤルがあり乗合馬車の発着場があった頃は大いに栄え、盛り場と人々の移動手段が変わってしまうと急速に衰えた、まさに19世紀のパサージュが歩んだ運命の典型の一つなのであった。
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