梅原貞晴著『蘇州慕情』(新風舎)読了。
著者の「背伸びをして文章を欠くことが嫌い」という思いは分かるし、著者の人生にとって大きなことだったのも分かるが、いかにも教育畑を歩んできた人の表現で書かれた蘇州の大学で働くまで文章は正直退屈であった。
もちろん、旅の経験が多くても熟年に至って初めて外国で教員の仕事をする一大決心をして旅立つときの「最初の一歩」を踏み出す心境については、私には到底想像だにできないことだと思わざるを得なかった。
蘇州に住み始めてからの章で、とくに蘇州の観光地もつ歴史に関する内容は大変興味深く、文章がいい意味でほぐれてくるのもあっておもしろい。呉王の闔閭(こうりょ)からの春秋戦国時代のみならず、三国時代以降の蘇州ゆかりの王や武将や詩人達の縁の史跡への思いは並々ならぬものがあって、知る人ぞ知ることって本当にたくさんあるんだなと何度も思った。旅には旅支度が必要だが、たとえ事前に調べつくしたものが当然のように目の前に現れるような計画的すぎる旅になろうが、詳細なリサーチを心がけておいて決して損はないし、著者の紹介する史跡はそういったリサーチをしてから現地で時間をかけてじっくり見たほうが良いものが多いように思う。
そして、
紹興は心なしか田舎くさい町だが、なんとなく親しみを覚え、旅人を裏切らない温かさを覚える。(p166)
個人的に「うむ」と共感した。私は紹興で特別に親切にしてもらった体験はないけれど、現地の人および紹興で学んだ人に対する印象と重ね合わせると著者の言いたいことがとてもよく分かる。
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