1956年
私は今度ナショナル・リーグの最優秀投手でしかも「最優秀選手」に選ばれたドジャースのエースのドン・ニューカムに大きな期待を持っていた。彼は試合前の投球練習を正確に15分間行った。美しいリズミカルな投球フォームからくり出す速直球とブレーキの鋭いカーブを投げていた。6尺4寸の彼の投法は文字通り堂々たるものである。しかし、練習中から少しコントロールが悪いように見えた。試合となってから与那嶺四球後、豊田が第一球を右翼スタンドに本塁打し、つづく中西、川上、山内と連続安打を放ち、無死でKOされてしまった。おそらくワールド・シリーズにおける不調で自信を失ったことが未だに回復しないためであると思うが、それにしても不思議に思われることは彼が一つもカーブを投げなかったことである。かわった新人投手のローバックはその後よく押えたが、五回に中西に2点ホーマーされた。ローバックはよいカーブを多投していた。ニューカムの不調があったとはいえ、日本の打者は実によく打った。とくにパ側の打者たちが快打していた。ドジャースの打者は島原のカーブに押えられ、四回にようやく1点を返したが、代わった大崎、三浦も打てなかった。この試合はまったく、主客転倒の感があったが、ドジャースの不調もさることながら日本の選手が攻守ともに立派な健闘をしたことは絶賛されてよいと思う。これは漫然の結果ではなく、近年日本の球技が異常の向上進歩をとげたことを証明するものであると思う。
オルストン監督「この日のゲームでは日本の投手の方がニューカムよりはるかに出来がよかった。ニューカムはワールド・シリーズ以来まったく不調で、この日見たところでは今までのフォームとちがい、わたしの判断では肩を痛めたのではないかと思う。本塁打を打った豊田、中西の二人とも力があるし、いいバッターだった。日本の投手の目だったところはカーブのコントロールがきわめていいことだった。キップはナックルやチェンジ・オブ・ペースでよく投げたがわたしは彼を今春のキャンプとハワイで見ただけで、この日でなんと三度目だ。これからもどんどん投げさせてよく観察する」
豊田選手「一回の本塁打は真中の速球でやや遅れ気味だったのではないかしら」
中西選手「「ローバックから奪った本塁打は真中高めの球だった。2ストライクだから山をはって待っていた。ニューカムはブルペンではものすごく速かったがプレートに立つと特別速いとは思えなかった。球筋がきれいなんだ」
川上選手「ニューカムはカーブをあまり投げずシュートと速球を主に投げていた。日本の投手よりやや速いという程度だがスピードを苦にしないであれだけ打ったのはこちらの力が毎年大リーガーの来日によって向上しているからだろう。ニューカムの腰を引いた異様なフォームは右の打者にはやや脅威だったらしいが、わたしは左なので平気だった」
私は今度ナショナル・リーグの最優秀投手でしかも「最優秀選手」に選ばれたドジャースのエースのドン・ニューカムに大きな期待を持っていた。彼は試合前の投球練習を正確に15分間行った。美しいリズミカルな投球フォームからくり出す速直球とブレーキの鋭いカーブを投げていた。6尺4寸の彼の投法は文字通り堂々たるものである。しかし、練習中から少しコントロールが悪いように見えた。試合となってから与那嶺四球後、豊田が第一球を右翼スタンドに本塁打し、つづく中西、川上、山内と連続安打を放ち、無死でKOされてしまった。おそらくワールド・シリーズにおける不調で自信を失ったことが未だに回復しないためであると思うが、それにしても不思議に思われることは彼が一つもカーブを投げなかったことである。かわった新人投手のローバックはその後よく押えたが、五回に中西に2点ホーマーされた。ローバックはよいカーブを多投していた。ニューカムの不調があったとはいえ、日本の打者は実によく打った。とくにパ側の打者たちが快打していた。ドジャースの打者は島原のカーブに押えられ、四回にようやく1点を返したが、代わった大崎、三浦も打てなかった。この試合はまったく、主客転倒の感があったが、ドジャースの不調もさることながら日本の選手が攻守ともに立派な健闘をしたことは絶賛されてよいと思う。これは漫然の結果ではなく、近年日本の球技が異常の向上進歩をとげたことを証明するものであると思う。
オルストン監督「この日のゲームでは日本の投手の方がニューカムよりはるかに出来がよかった。ニューカムはワールド・シリーズ以来まったく不調で、この日見たところでは今までのフォームとちがい、わたしの判断では肩を痛めたのではないかと思う。本塁打を打った豊田、中西の二人とも力があるし、いいバッターだった。日本の投手の目だったところはカーブのコントロールがきわめていいことだった。キップはナックルやチェンジ・オブ・ペースでよく投げたがわたしは彼を今春のキャンプとハワイで見ただけで、この日でなんと三度目だ。これからもどんどん投げさせてよく観察する」
豊田選手「一回の本塁打は真中の速球でやや遅れ気味だったのではないかしら」
中西選手「「ローバックから奪った本塁打は真中高めの球だった。2ストライクだから山をはって待っていた。ニューカムはブルペンではものすごく速かったがプレートに立つと特別速いとは思えなかった。球筋がきれいなんだ」
川上選手「ニューカムはカーブをあまり投げずシュートと速球を主に投げていた。日本の投手よりやや速いという程度だがスピードを苦にしないであれだけ打ったのはこちらの力が毎年大リーガーの来日によって向上しているからだろう。ニューカムの腰を引いた異様なフォームは右の打者にはやや脅威だったらしいが、わたしは左なので平気だった」