そもそも論者の放言

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「歴代総理の通信簿」 八幡和郎

2006-12-30 00:44:45 | Books
歴代総理の通信簿 間違いだらけの首相選び

PHP研究所

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歴代総理を100点満点で採点した福田和也氏の「総理の値打ち」に対するセカンド・オピニオンとして読んだ。

著者の八幡和郎氏は元通産官僚で、現在は評論家、徳島文理大学教授。
特にリベラル寄りということは無いと思うが、本書の中でも「ハト派」であることは自認している。
歴史認識についてはアジア諸国に配慮すべきとの考えを表し、いわゆり「押し付け憲法」論の非論理性を唱えたり、自民党の右傾化に対するバランサーとしての連立政権における公明党の存在を評価したり、と保守系タカ派の人からは悪く言われそうなことも主張している。
元官僚、フランス留学経験あり、といった経歴からか、官僚の力を高めに評価し、アジア・アメリカよりもヨーロッパを上に見る傾向があるようだ。

「総理の値打ち」と異なりA~Eの5段階評価がされており、各総理の業績・評価の解説はより詳細。
また人物単位にまとめるのではなく時代の流れに沿って書かれている(伊藤博文のように何度も総理大臣になっている人物は、登場の度に分かれて解説が書かれ最後にまとめて評価が論じられる)ので、明治以降の政治史を大観するという意味ではより有用である。
各人物の評価も、あくまで「総理大臣として何を為したか」が基準になっている。
例えば大隈重信については野党政治家としては高く評価できるとしながらも、総理大臣としては最低ランクと断じている。
また、近衛・平沼・米内あたりも総理を退いて後の立場での終戦工作への貢献は高く評価しながらも、総理大臣時代としての無策ぶりは酷評されている。

両著の評価を比較してみよう。
(人物、「総理の値打ち」における採点、本書におけるランク、の順)

両著共に高評価
 伊藤博文、91、A
 山県有朋、85、B
 原敬、73、A
 加藤高明、72、B
 鈴木貫太郎、71、B
 吉田茂、68(占領中、独立後は27点)、A
 岸信介、81、B
 佐藤栄作、72、B

両著共に低評価
 林銑十郎、41、E
 近衛文麿、17、E
 平沼騏一郎、39、D
 阿部信行、32、D
 小磯国昭、37、D
 鈴木善幸、41、D
 小泉純一郎、27、D

両著で評価が分かれた人物
 大隈重信、54、E
 東条英機、52、E
 幣原喜重郎、55、A
 池田勇人、62、A
 田中角栄、57、D
 三木武夫、42、B
 竹下登、61、D
 細川護熙、31、B
 村山富市、28、C
 森喜朗、30、C

やはり、明治の近代国家創成期、そして敗戦後の再興期という「国づくり」の時期にリーダーシップを発揮した宰相の評価は高く(吉田と岸の評価が逆転しているあたりに両著者の立ち位置の違いは感じられるが)、軍部の暴発に対して無策だった昭和10年代の宰相は総じて低評価。
そして平成以降のリーダーの低見識を嘆いている点も共通している(福田氏の見方はより厳しく、昭和10年代との相似性まで指摘している)。

評価が分かれた人物については、まず東条英機については両者とも開戦よりも戦争終結に向けて何らアクションを起さなかったことを糾弾している(八幡氏の方がより厳しい)が福田氏は人望の厚さの点でやや評価が高いようだ。
田中角栄については、両著とも功罪相半ばする存在であることを認めた上で、福田氏の方は列島改造計画による地方の農村経済の底上げを果たしたという点で一定の評価をしている。
八幡氏における細川護熙の高評価は自分もやや納得がいかないのだが、何はともあれ自民党永久政権を倒したこと、小選挙区制導入による政治改革を果たしたことに評価を与えているようである。

いずれにせよ、こういった評価というのは、歴史の大きな流れの中で位置づけられていくものであり、戦後日本の総括が未だ為されているとは言えない状況では、戦後の各総理の評価が一定しないのも致し方のないところか。
結局のところ、苦境にあって困難な大仕事を決断し実行した人物が歴史的にも評価されるわけで、安倍総理に関して言えば支持率云々はどうでもいいが、ほとんど何も為していないわけで、今のところ評価のしようがないといった感じだろうか。
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