治療をためらうあなたは 案外正しい EBMに学ぶ医者にかかる決断、かからない決断名郷 直樹日経BP社このアイテムの詳細を見る |
病気を特定し早期発見するために検査を受ける、治療のために薬を使ったり手術を受けたりする、これらは当たり前の常識だと考えがちですが、よくよく考えるとそうでもないかもよ、という本です。
検査には偽陽性・儀陰性ということがあり得るので100%の診断ができるわけではない一方で、身体に負担がかかる。
薬には副作用があるし、手術のリスクは大きい。
そして、いずれについても経済的なコストが発生する。
統計的には、検査で病気を早期発見し、適切な治療を受ければ、病気で死ぬ確率を減らすことができるとしても、個々のケースを見れば、検査して治療しても死んでしまう人もいれば、検査も治療もしなくても結構長いあいだ生き続ける人も意外に多い。
「EBM(evidence-based medicine)」という考え方に基づき、臨床データを元に、診療が具体的な数値としてどれほどの効果を上げているのか紹介していきます。
例えば、高血圧を薬で治療すると脳卒中になる確率を10%から6%に減らすことができるというデータがあるそうです。
これを「脳卒中になる危険を4割も減らすことができる」と捉えるのか、「100人中4人しか救うことができない」と捉えるのかは微妙なところ。
もちろん何のリスクもコストも発生しないのであれば当然治療したほうがよいに決まっているけど、副作用もあるしお金もかかる。
勿論、著者自身医者なので、検査や治療なんて役に立たないから係らないほうがいいと主張しているわけではありません。
患者自身の価値観で人生全体を考慮に入れた上で、治療のメリット・デメリットに関する情報をもとに総合的に費用対効果を考えて判断したほうがよい、という話です。
この本で紹介されているデータをどこまで信用していいのかすら分からないし、いざとなったら医者にすがるしかない患者の立場からすると実際には賢明な判断をするのはなかなか難しそうですが、こういう考え方を頭に入れておくのは悪くないなと感じました。
自分が一番印象に残ったのは癌の発見・治療に関するこんな例え話。
癌は早期発見が一番、というのは統計的には正しいけれども、早期癌患者の半分以上は5年経っても進行癌になっていないというデータもある。
人間ドックで早期癌を発見してすぐに胃を切除すれば癌を完全に切り取ることができるが、仮に発見が5年遅れたとしても進行癌になっていない確率は意外に高い。
5年遅れで胃を切除し癌を完全に切除できたとしたら、結果的に前者のケースよりも5年長く完全な胃で過ごすことができたことになる。
そう考えると、早期発見が必ずしも幸せをもたらすとも言い切れない…