タンノイのエジンバラ (文春文庫 (な47-2))長嶋 有文芸春秋このアイテムの詳細を見る |
「タンノイのエジンバラ」「夜のあぐら」「バルセロナの印象」「三十歳」の4編収録した短編集。
大傑作、とはいかないまでもいずれも秀作揃い。
個人的には「三十歳」が一番好き。
長嶋有の小説は、情景が在り在りと目に浮かぶところがいい。
しかもその情景は何の変哲もない平凡な街だったり建物だったり部屋だったりする。
風景が人の生活や人生と結びつき、情景となる。
「三十歳」に、パチンコ屋の屋上のシーンがあります。
これがいい。
「パラレル」にも屋上の場面があったけど、ビルの屋上という場所は、世間から疎外されているようで離れきれない、むしろ世間を俯瞰して眺めてしまったりする、独特の雰囲気をもった空間で、それが小説の雰囲気とばっちり合っています。
もう一つの特徴は、「家族」が描かれていること。
家族、中でも親子や兄弟姉妹といった、子供のころからひとつ屋根の下暮らしてきて、大人になるにつれ何時の間にか「ずれ」が生じてしまったような、微妙な心理的距離を描くのがとても巧いと思います。