イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

“週刊オスト”

2009-01-03 00:07:27 | 夜ドラマ

訪れる機会はまだありませんが、九州・熊本と言えば、何と言ってもヒーローはいまだに加藤清正だそうで。

旅回りの大衆劇団が熊本で興行する際は、演し物が何でも、国定忠治でも瞼の母でも、劇中一度は銀色烏帽子に蛇の目の紋所を付けた清正公が袖から登場、「さしたる用は無けれども、あらわれ出でたる加藤清正」と見得を切って、また袖に帰ると、芝居の本筋に関係なく客席は大ウケ、拍手喝采するのだそうです(もう20年近く前、確か司馬遼太郎さんのエッセイで語られていたので、現在は違うかもしれない。地元事情をご存知のかたがおられたらご指摘及びご容赦を)。

1日放送の『相棒 元日SP ~ノアの方舟~』での、大河内監察官(神保悟志さん)も、何だか、さしたる用無き加藤清正公みたいでしたな。エコロジーテロ組織の次の標的は?の捜査会議の最中に「部外者の私が出しゃばるのは恐縮ですが」とツカツカと入ってきて、「テロリストのアジトから見つかったそのメモ書きに、計画をつかむ手がかりがあるかと」「推論の域を出ませんが、北新宿は駅名、WEはウェンズデイ、1900は時刻、クモ720は列車記号です」と自説をトウトウと披露。

しかも、最終的には北新宿駅以外ぜんぶ読み違いの、妄想の、空振りだったという(壮絶爆)。

最悪のときの月河の馬券よりひど…………互角か(地味爆)。

この役回り、何で大河内だったんでしょうね。犯罪を取り締まる警察組織の、そのまた内部の警察官の不正を取り締まる、鬼より怖いお目付け役。キャンディのように年中鎮痛薬を、コメカミにスジ立ててポリポリ噛んでる頭痛持ち。警察官と言うよりはキャリア官僚というイメージで、本来は、Season7で言えば『最後の砦』のような、警察内の不祥事隠蔽や汚職などにかかわるエピソードでおもに活躍、というより話がそっちのほうに行かなければ出番のないポジションです。正月SP、隠れ人気キャラに出番サービスってことかしら。

昨年の正月SP『寝台特急カシオペア』では“花の里”のたまきさんが“隠れ鉄子”の片鱗をうかがわせていましたが、またしても相棒ワールドに“隠れ鉄”出現ということなのか。とりあえず脚本・監督さんチームを含めたスタッフ内の“鉄分含有量”が、もとから高そうなドラマではあります。

さて、亀山くん(寺脇康文さん)去りし後どうなることかと思われたドラマ本編のほうは、賛否あるでしょうが月河はなかなか良かったと思います。

小野田官房長(岸部一徳さん)からのたっての依頼で、スポット相棒として法務省大臣官房補佐官の姉川聖子(田畑智子さん)と組まされ、最初は明らかに「畑違いで足手まといだし、そもそも(大きな声じゃ言えないが)女性は不得手だし」と迷惑キョドリ顔だった右京さん(水谷豊さん)が、“何故、若い女性キャリアがこんな任務に?”という興味から少しずつ距離を詰めて行き、アウェイながらも私心のない姉川の働きぶりに、徐々に好感を持って行く抑制的な描写がよかった。少々危なっかしくても、女でも、打算なく一生懸命仕事をする若い人は、基本的に右京さんは評価するし積極的にサポートもしてくれる。

マンホールに入るくだりがひとつの関門パスになったかな。「(テロ標的かもしれない)船に乗ります、杉下さんが間に合わなければ、私だって役立てることがあるはず」と告げて姉川の電話が切れたあと、例によってドア外で覗き見ていた大小コンビの間を割ってダッシュする右京さんがカッコよかった。

亀ちゃんが右京さんと組まされた当初は、もっぱら亀サイドから右京を鑑賞し、違和感を持ち、反発するという語り口だったように思う。今回、姉川補佐官が右京の変人性に触れて嫌悪や抵抗を示す描写がほとんど見られなかったのもベタ感がなく快適でした。だいたい、配属先上司の頭の良さや唯我独尊ぶりがいちいちカンにさわるようでは、うら若い女子が東大卒揃いの男社会=中央官庁キャリアなんてやってられないだろうしね。

ウチの高齢家族は視聴中「瀬田法務大臣(渡哲也さん)への忠誠心オンリーじゃなく、息子(渡邉邦門さん)と恋仲だったのでは」、「いや、大臣を父と慕う妾腹の娘で、息子とは異母妹かも」等といかにも2時間ドラマの見過ぎな推理をしていましたが、ここらのありがち後付け設定がなかったのもさわやか。

ま、その分、かつての第三の男・陣川警部補(原田龍二さん)のように、新参側から右京に働きかけて起こす、コメディタッチなくすぐりも含めての波動や火花はみられなかった。武藤かおり弁護士(松下由樹さん)や片山雛子議員(木村佳乃さん)、内田美咲医師(奥貫薫さん)などの、過去に特命係と仕事でコラボした女性人物と比べても、その辺の摩擦係数の低さに「これじゃ相棒じゃなくてただの派遣お手伝い」と不満な向きもあるでしょう。

ただ、亀山は寺脇さんが演じることで、ほとんど代替性の無い非常に特殊なキャラクターになっていたことも確かなのです。1962年生まれの寺脇さんは、中学時代から水谷さんの主演ドラマのディープなリピーターで、学生時代も、俳優になってからも水谷さんのモノマネに興じていたという、要するに俳優・水谷豊をリスペクトしてやまない“ファン”だった。土曜ワイド劇場枠でスタートした『相棒』での共演も、寺脇さん自身からの熱心な希望で実現したとのこと。

この高体温が、脚本や役作り、現場での演出や撮影に反映され、化学変化を起こさなかったわけがない。右京&亀の相棒協奏曲は、“憧れの水谷さんと組めて、一挙手一投足テンション上がってしょうがない”寺脇さんが一翼を担ったからこそ誕生し呼吸し得たのであって、いま、出来上がった“『相棒』という人気ドラマ”からオファーを受けて、役を与えられて現場に入り、水谷さんらと「○○です、よろしくお願いします」と挨拶をかわして位置につく役者さんでは、亀山と同質の地合いは織り成せなくて当たり前です。

今後、このドラマが、同じ『相棒』というタイトルを冠して存続していくなら、いままでとは正反対に、右京サイド主語で“自分と異質な、(おおかたは)能力的に劣る人物”と接触して起こす拒否反応やその好転、あるいは悪化、柔軟化と和解などの顛末にスポットが当たることが多くなると思う。年齢的にも寺脇さんより若い、演技歴の浅い俳優さんの参入率が高まり、水谷さんとの実年齢差・芸歴差はますます開いていくでしょう。

寺脇さんと同世代の、同じように“役者水谷LOVE”な俳優さんを選んで嵌め込んで、新たなるハイテンション化学変化を期待するのでは、逆に寺脇さんを卒業させた意味が無くなる。

80年生まれ、水谷さんと実に28歳差の田畑さんが演じた姉川補佐官は、ちょっと薄味ながらもいい先鞭をつけ、ややぎこちないながらも新しい方向性を示してくれたと思います。

田畑智子さんをちゃんと見るのは、NHK朝ドラ『芋たこなんきん』のカモカのおっちゃん妹役以来かな。男社会で頑張る女子役はぴったりで、余裕を持って演じていますが、単発ゲストにせよ通常回ではなく正月SPだし、もうちょっとケレン味あってもよかったか。新相棒として定着はしないまでも、「また法務省がらみのエピソードが来たら出てほしい」ぐらいの名残惜しさは残してほしかった。この辺は、田畑さんの演技の力量ではなく、姉川聖子という人物に、スタッフがさほどの粘っこい思い入れを持たなかったということでしょう。他発的に組まされて、さらっと、でも真摯にコラボして、感謝とほのかなリスペクトを共有して、さわやかに別れる、それもよし。

このドラマ得意の小ネタで笑ったのは、法務大臣、息子がテロ関与容疑で辞職か?の会見で記者の質問に答えていた現内閣官房長官らしき人物が、『美しい罠』の小谷教授役・窪園純一さんでした(小“ネタ”ではないですね)。この人、あからさまな意地悪上司・セクハラ上司顔なのに、なぜかドラマで見かけるたび教授とか重役とか、偉い人役なんですよね。

確かに、現職の細田官房長官と、お顔の角張りのっぺり具合など、系統的相似が見えないこともない。

あとね、大河内監察官のとっ外れ指南よろしく、北新宿駅1900着のクモ720型列車に爆弾捜索のため捜一トリオがずかずか乗り込む場面で、車内中吊り広告が“週刊習慣”2カットぐらいにわたって、結構長く映ってましたよ。

スタッフさん、遊び過ぎでしょうよ。好きだけどこういうの。角田課長(山西惇さん)がヒマ時愛読している、ア○ヒ芸能ならぬ“キリン芸能”、週刊○衆ならぬ“週刊大空”と並んで、相棒ワールドにはこんな“なんちゃって雑誌”がいったい何誌あるんだ。

きっと“文藝夏冬”“週刊朝目”なんてのもあるに違いない。

昨年のSP『カシオペア』同様、昭和の右肩上がり日本の、影の部分がもたらした悲劇が本筋になっていましたが、菱河石油化学が野上(中本賢さん)の故郷の村に工場建設したのが30年前、1978年との設定。ここは月河の皮膚感覚ではちょっとずれている。大企業による廃液、排気汚染がいちばん野放図に行われていたのは60年代中葉からオイルショック前の70年代前半で、78年ともなると訴訟になったいくつもの公害病問題の反省と警戒から、先進企業はかなり慎重になっていたはず。

このへんは、公害病犠牲者の息子・野上役を中本賢さんが、当時の工場長役を三浦浩一さんが演じることに合わせての調整かもしれません。回想フラッシュで挿入された、工場進出景気に沸く村の風景や、人物の服装も、どう見ても78年というより、68年前後のもの。いつか別のドラマについて書いたときも思ったのですが、昭和も遠くなりにけり。これだけ映像化の際の整合性維持が難しくなっているということ。

放送中何度か挿入された、3月公開のスピンオフ劇場版映画『鑑識・米沢守の事件簿』CMに高齢家族が興味を過度に示し「前売スケジュール訊いて、チケットカモン」言い出さないかヒヤヒヤしていたのですが、フィルム撮影の画質がドラマ本編と違ったこと、エレファントカシマシの主題歌がバックに流れたことで、異質なものと感知したらしく、さしたる反応もなくスルー。

むしろ非高齢組のほうが「鑑識さんの逃げた奥さんが変死体で発見!?美人だったなあ」と過度に興味を持った模様。なんかねぇ、狙って垂らしてるのが見え見えの釣り針に、いちいち綺麗に引っかかるタマが、本当にウチには揃っておるなぁ。

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