イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

スウィート法務

2009-01-04 00:04:39 | 夜ドラマ

新年早々、ダメ出しや先を憂うトーンの話題もどうかと思い、昨日はかなり、捜索願出す勢いで賞賛可能箇所探し回って書いたのですが、さすがに少し疲れた(爆沈)『相棒元日スペシャル ~ノアの方舟~』。

 たぶん長年のファンからこてんぱんであろう点“亀山辞職の劇中フォローなし(=つい最近まで杉下警部の部下に、亀山薫という長年の相棒がいたことに触れる台詞が、捜一伊丹の台詞一つだけ)“スポット相棒・姉川法務相補佐官(田畑智子さん)の、あまりのなんてことなさ”以上に、個人的に失望したのは、瀬田法務大臣の渡哲也さん。

不定期再放送を中心に、かなりの話数を見て来ましたが、正直、こんなに“『相棒』ワールドに不要”なゲストもいなかったと思う。

前身は人権派、庶民派の弁護士で、民間起用の法務大臣という役職に、長く音信普通で環境問題への情熱が高じ、エコテロに身を投じたかもしれない息子への静かな親心と社会的使命感との葛藤もからめ、キャラクターとしては渡哲也さんに合った(合わせた?)設定がなされている。

ただ、いかにも芝居の質や、佇まいの質感が『相棒』に合わない。脚本や監督スタッフもその辺を予見してか、渡さんと“『相棒』ネイティヴ”とのからみシーンは、序盤の車中での小野田官房長(岸部一徳さん)、ラスト前の拘置所廊下での杉下(水谷豊さん)と最小限におさえてありましたが、自分を恨んで犯行に及んだ野上(中本賢さん)に陳謝する長台詞シーンで、やっぱり露呈してしまった。なんだか、“カメオ出演に、間違って台詞いっぱい与えちゃった”みたいなんですよ。

制御が危惧されるほどの大物感や強烈過ぎる個性を放つベテラン・性格俳優と言うのならば、たとえば準レギュラーにまでなった長門裕之さん、津川雅彦さん兄弟、故・岸田今日子さん、大滝秀治さんなどもいました。08年の元日SP『カシオペア』に長山藍子さんの名前があったときはかなり心配だったのですが、密室の列車と北海道を主舞台にとったSPのアウェイ感と、思いのほか長山さんに臭みがなかったのが幸いして、ほどのよいメルヘン性を漂わせつつうまくまとまった。

荻野目慶子さんゲスト回(Season6『蟷螂たちの幸福』)は、音楽に工夫してはなから“異色作仕立て”にし、右京と亀が書店の平台で回顧するラストシーンではすでに世を去っているという“閉じられ感”で、荻野目さんの強烈さ馴致にギリ成功。

渡さんが相棒ワールドに合わないのは、B級感の出し入れ”ができないからだと思う。最初っから最後まで重厚。隙間なく、一本調子に大物。“渡哲也”か“渡哲也が扮する人物”以外の何ものにもなれない。

長門さんにせよ津川さんにせよ、戯画的なB級演技の織り混ぜ方が絶妙だった。岸田今日子さんには若き日の水谷豊さんの代表作のひとつ『傷だらけの天使』ほか、大滝秀治さんには伊丹十三映画の数々で、それぞれ分厚い怪演歴がある。荻野目慶子さんはもちろん昼ドラ、数十話にわたる長丁場視聴で辟易させない調節能力を証明済み。『相棒』ゲストイン成功したベテランさんたちは、あくが強くても振り幅も広い。自分で自分をセルフ戯画化できるのです。B級感の出し入れと言うより、“モノマネタレントの定番ネタになり得る”ととらえたほうがわかりやすいか。

あるいは、事件勃発前の、息子と距離が生じた頃の、プライベートな回想シーン、救出された息子との再会場面なんかもあったら、瀬田の人物像がもっと等身大になったかなとも思いましたが、渡さんが演じている限り、シーンや台詞を増やせば増やすほど浮き上がりに輪をかけそうで、スタッフはさぞジレンマだったことでしょう。

東映アクション映画や任侠路線の主役で鳴らしていた頃の渡さんを、月河は残念ながら知らないのですが、『西部警察』以降、特に石原裕次郎さん亡き後は、渡さん、大門軍団“団長”を通り越して、石原プロ“社長”になってしまい、俳優としての意味の変化が、もともとの演技引き出しの多くなさと相俟って、ますます潰しが利かなくなったというところか。時代劇なら、衣装やヅラが大仰であらかじめ虚構感が強い分、まだ脇もいけるんですけど。05年大河『義経』の平清盛はなかなか良かった。

シロウト考えですが、かねてから東映・テレビ朝日と石原プロのお付き合いは長い。年末年始、石原プロ前面フィーチャーのSPドラマを、一本はやらせてほしいところ、お互いの身体的・予算的・企画的スケジュールが合わず、目下のテレ朝東映チームの看板作となっている『相棒』への、渡邉邦門さんを付録(荷物?)につけてのメインゲスト出演でお茶を濁した、但し長門さん津川さんより役職的に格下人物役では天下の石原プロ社長に釣り合わないので、法務大臣に持ってきて、よってああいうお話になった、なんてことはないかな。

ウチの高齢家族は正直かつシンプルに「渡瀬恒彦のほうがよかった」って言ってましたよ。渡瀬さんは同系列で『おみやさん』の主役、『警視庁捜査一課9係』のレギュラーがあるし物理的にもちょっと無理かなと思いますが、もともと土ワイからスタートした『相棒』の世界にふさわしいB級感の調節能力では、兄上より何日もの長があります。

「ちょっとカンロクが足りないかもしれないけど、法務大臣なら鳩山邦夫だってやったんだから」…うん、2時間ドラマ見慣れてる高齢組のほうがコロンブスの卵か。最近持ち直してきた頭髪をオールバックにしたりなんかした渡瀬さんの法務大臣、あってもよかった。

“大物しか演じられない”人が、絵ヅラ通りの大物役にあたるより、“大物イメージはあまり…”な人を、演技と演出で大物に見せるほうが、はるかにドラマ的、虚構的スリルがありますしね。

コメント
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