イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

人と超人

2009-01-29 17:23:07 | 夜ドラマ

124日(土)土ワイ枠(2100~)の松本清張生誕100年スペシャル『疑惑』、気にかけてはいたのですが録画に手が回らず、帰宅が2120過ぎでとりあえず片付けながら中途入場&背中で音声だけ視聴。

たぶん発端であったはずの、雨の夜埠頭から車ダイブ→夫を車中に残し球磨子ひとり救出さるの説明描写をまるっと見ていないのですが、キャストを知ったときいちばん心配だった沢口靖子さんの球磨子が、意外になかなかだったのは、嬉しいほうの期待はずれ。82年の松竹映画版『疑惑』では桃井かおりさんが、したたか3乗ぐらいの、叩いても踏んづけても燃やしても死ななそうな球磨子を表現していましたからね。

沢口さんは、声がさすがにどうにもドスがきかない感じではあったけど、“いっぱいいっぱい感”“瀬戸際で生きてきた感”がはしなくも滲み出て、違った意味で怖い球磨子になっていたと思います。着飾って記者会見の席上TV中継の最中に逮捕される場面から見たのかな。もともと華奢なのにさらに減量したのか、肩とか首とかスジが立つくらい痩せて、コメカミの髪の生え際にも血管が浮いているし、ほとんど幽鬼のよう。92年に火サス枠でもドラマ化されており、このときはいしだあゆみさんが球磨子に扮したので、沢口さんはこちらをイメージして役作りしたのかもしれません。

実は役名なしの出演者リストを番組表で見たとき、てっきり球磨子役は若村麻由美さんが演るものだと思っていたんですよ。んで沢口さんは田村正和弁護士に思いを寄せる亡妻の妹かなんかで、真矢みきさんが対立する女検事ね。180°とまではいかないけど、140°ぐらい違いましたね。“シロウトが考えそうな配役”をわざと外していったのも狙いのうちだったのか、ちょっと若村さんの登場シーンの少なさはもったいなかった。

嬉しくないほうの期待はずれは、今作、球磨子の強烈さより、鬼クマ憎しの世論の逆風に屈せず真相に迫らんとする人権派弁護士を演じる田村正和さんフィーチャー、プロモーションV的な味付けも散見され、そのためにくっつけた“依頼人の逆恨みお礼参りで妻殺害”“以後ひとり娘が離反、音信不通”“それでも正義と人権の信念をまげないお義兄さんリスペクトな義妹”などの後付け設定が軒並み嘘くさで不発。

行きつけのジャズ・バーがあって、カウンターに片肘ついてバーテンダーと話してる後ろ姿なんかは完全に古畑入ってるし、リクエストで玄人はだしのピアノを披露、常連客(ババアばっか)に「先生ステキ♪」なんてうっとりされてたり、ひとっつもドラマの本筋を面白くしてない。

義兄をリスペクトし誠心誠意サポートするけれど、亡き姉への慮りと道義心から恋愛感情は封印している義妹役に、元ヅカ男役でキャリアウーマン役など得意としている真矢みきさんを配したのも、湿っぽい男女ムードを匂わせず“仕事で信頼し合うパートナーシップ”を表現するためのキャスティングかもしれませんが、思いのほかミートしなかった。田村さんと真矢さんの“質感”が合わないのでしょう。

スクープ乞食の新聞記者秋谷(室井滋さん)が逃げ出した後、単身車ダイブ実験を敢行するくだりなど、ほとんどヒーローものみたい。田村正和さんと言えば昭和40年代の木下恵介アワーぐらいからTVでお顔を見ていますが、いつの頃からか職業や境遇設定とは別建てで“超人的”という属性を背負ってしまわれましたな。眠狂四郎』シリーズの頃からかしら。お若い頃から役者としての欠点と言うより“特徴”として定着してしまった“年中鼻詰まり”な台詞回しに、最近は“シャガレ”まで加わっていますが、場面と台詞によってはまったく気にならないこともあり、撮影中の体調が斑らだったのかな。とりあえずそんなこともほぼ吹っ飛ばす勢いの超人性全開です。

洋画や洋ドラでもよくありますが、事件ものにおける刑事や、法廷ものの弁護士、医療ものの医者などの主役の、家庭・家族の事情を本筋の事件と並行させたり匂わせたりする作りは、やりがちだけど、難しいですね。アメリカの刑事映画なんかだと、たいてい奥さんが愛想尽かして出てってるし、そのために薬物やアルコール依存症で休職してカウンセ受けるなど家庭が崩壊しているのがデフォルトにすらなっている。

『疑惑』も松竹映画版では岩下志麻さんの女流弁護士がやはりひとり娘に月一しか会えないバツイチ、結審前後には前夫伊藤孝雄さんから「この人と再婚したい、娘もなついている」と楚々たる(←当時)真野響子さんを紹介されて憮然…なんて場面もあったと記憶しています。

勇気ある女弁護士が果敢に真実を突き詰めたら悪女にも五分の魂ありの勝訴になったけど、女性として、妻として母としての幸せには縁がなく模索中、ということを言わんとしたのかもしれませんが、だから何なんだという話。桃井さんの球磨子のように、男を次々誑して這い上がり生き残る才ひとつの女と“どっちが幸せ?”という問題提起だとしたらあまりにも無理があるし、あのバツイチ描写部分は、今作の田村弁護士の亡妻がらみ以上に、そっくり不要ノ介でした。

どうも日本のドラマや映画は、特に警官・法曹・医師・財閥総帥など“リスペクトされ畏怖されるのが仕事のうち”の主人公を設定した場合、どうにかして生身の人間として“感情移入”させようという後付け小細工に走りがちで、なくもがなの色恋や家族ネタ、幼時体験等をくっつけてはスベる傾向がある。話さえおもしろければ、主人公が中途半端に血のかよった普通人なキャラである必要はまったくないのですがね。

さて、私生活色恋要素マスキング、感情移入を謝絶する“非・普通人”主人公と言えば、2009年日本のTV界では何と言っても、たったひとりの特命係・杉下右京警部殿(水谷豊さん)(@『相棒』)です。2週ほどレヴューを休みましたが、121日、28日放送分、ともになかなかの興趣作でした。次週は放送休止で、次回放送は211日(水・祝)だそうなので、個別にゆっくり振り返る時間があるかな。

コメント
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