先日予約していた『夏の秘密』サウンドトラックCDを受け取りに立ち寄ったついでに、同じ店内のオーディオフロアで、念願のデジタル音楽プレイヤーを購入。トヨタのこども店長じゃないけど「今日の給食はカレーだ!と喜んでいたら、揚げパンもついてきた!」ぐらいの感じで浮き浮き帰宅。
「iPodはビスタ専用、XPならSONY」と店員さんがアドバイス誘導してくれたので、まったく迷う余地なく決定。デジタルオーディオって、てっきりメモリーカードみたいなやつに“ふぁいるへんかん”とか“でぇたてんそう”とかして、機体に挿し込んでやらなきゃいけないもんだと思ったら、好みのCDをPCに取り込ませれば、同梱のケーブルで直行、“中”の記憶装置にコピーできるんですね。こちとら80年代のカセットウォークマン時代で思考が止まっているので、曲の“持ち運び”にはテープなりディスクなり“媒体”が無くちゃできないと思い込んでいたのです。時代は変わった。
早速まず『夏の秘密』CDをPCに取り込んで転送を試みたら、うっかりAUTOでPC内のミュージックをぜんぶごちゃっと転送してしまい(また速い速い!)いったんぜんぶ手で削除して、アルバム名・曲名から手入力して無事作業完了。
これは昨年の『白と黒』をも凌ぐ岩本正樹さんの傑作アルバムですよ。ドラマ劇中では概ねどの曲も、甘いムードや、緊迫感演出で使用されることが多い(←ドラマ劇伴の宿命)ため、「きれいなメロディーではあるけど、きれいなだけ」とスルーされがちなのではないでしょうか。それは惜しい、惜しすぎる。アルバム全曲通して聴くと、TV視聴の印象よりずっとドラマティックでダイナミックで、かつラージスケールです。まずはだまされたと思って1曲め『群青のシルエット』のうねる波濤に翻弄され、返す刀で2曲め『星屑と夜空』の哀切に身を切り刻まれてみたまえ。もう抜けられなくなるから。
月河がいちばん待望していたフォークダンス調の、明るい長調の曲も『午後の日差し』のタイトルで6曲めに収録されていました。決してシャンデリアの下のセレブなパーティーでも、銀橋つき歌劇の麗々しいステージでもなく、幼稚園のお遊戯会でママ友たちも談笑…のような、おシャマな中にも庶民的な空気感がいいんですよね。ドレスアップしたオトナ淑女ではなく、紅夏ちゃん(名波海紅さん)がヒロインのダンス。
今作は紀保(山田麻衣子さん)にしても伊織(瀬川亮さん)にしても、恋愛経験があまりなく、そもそも基本的に恋愛体質濃厚なほうとは思えない男女が主人公です。何もなければ周囲に勧められるまま、あるいは学生時代の交流の延長で、“なんとなく安心で無難そう”“信頼し合って堅実に暮らしていけそう”ぐらいの動機で、散文的な納得ずくの結婚をして、ほかの異性を意識することもなく人生を全うしていたであろう若者たちです。
それが心ならずも巻き込まれた状況の副産物として“惹かれても何の安心も安泰も得られないであろう人に、なぜか惹かれてしまう”という感覚に目覚めていく。この“心ならずも”の感覚がとても巧みに、上品に音楽化されていると思います。
『夏の秘密』の後、『白と黒』サウンドトラックも転送しましたが、『夏の秘密』の26曲めと『白と黒』の13曲めに、同じ『朝露』というタイトルの曲があるんですよね。偶然か遭えてか、これは面白い。
『白と黒』のそれが、夏緑の林の中を自転車で走るような、さわやかに浮き立つ動感を湛えているのに対し、『夏の秘密』での『朝露』はアットホームな“庭先感”とともに、初々しいカップルの後朝(きぬぎぬ)のような、ときめきと含羞を秘めた、静的な哀傷にさそわれる曲調です。“朝”で“露”という同じワードを冠されていても、喚起される感興、描出される情景はこんなに違う。改めて音楽の力の底知れなさを感じます。
ドラマ本体は55話、残り2週まで詰まりました。昨日54話での、加賀診療所の診察室着替えコーナーを見かけて杏子(松田沙紀さん)の魂胆を紀保に知らしめる策(←紀保をアトリエ更衣室に潜ませた上で杏子に本音を言わせる)を思いついた龍一(内浦純一さん)、やっと敏腕弁護士らしい機転が(ほとんど劇中初めて?)見られたと思ったら、途端に今日の55話で来ました“一事不再理”。
ドラマの中で、浅い段階で、プロであれシロウトであれ法律に長けた人物が“無罪判決”ときたら、大体後半でコレが出てくるものです。ドラマにおける“司法判決”は、大詰めで出されるもの以外は、劇中何らかのクツガエリがあると見るのが自然。しかし加賀医師(五代高之さん)も、紀保の婚約者にしてみのり事件被告だった龍一が弁護士なのは、逮捕直後の週刊誌ネタにもなっていたぐらいなんだから、もうちょっと早く指摘してほしかったね。
あと、このところめっきり味出しキャラになった柏木(坂田俊さん)が、専門は理工学のはずなのに法律にも詳しい詳しい。企業技術者なら知的所有権関係法令などにはかなり精通している人は多いですけどね。伊織の回想内での柏木さん、すっかり仮想フィアンセにしている「…杏子さんが(アガサ・クリスティ『検察側の証人』を映画化した『情婦』でのマレーネ・ディートリッヒに)似てるんですよねぇ」とニヤけたとき、回想を示すソフトフォーカスが消えてまっさらになったりしたらおもしろかったのに。なんだか『みごろ!食べごろ!』時代の小松政夫さんの「悪りいね、わりいね、わりーねディートリッヒ」を思い出してしまいました。