イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

麗しのひと

2009-08-07 20:10:35 | ニュース

大原麗子さん。月河周囲では高齢家族・非高齢家族ともに、熱烈なファンではないけれども親近感のある年代です。高齢組にとっては“セクシーヴォイスのおきゃんな町っ子お姐ちゃん”あるいは“『男はつらいよ』シリーズ出色のマドンナ”、非高齢組は“可愛らしさのある大人の女性”というイメージのようです。この中間世代なら、何と言っても“六本木野獣会”でしょうね。

男性と女性とで分ければ、「すこし愛して、ながーーく愛して。」のウィスキーCMのイメージ通り、やはり男性のファンが多かったのかもしれませんが、未視聴ながら89年のNHK大河ドラマ『春日局』ではタイトルロールを演じているし、老若男女に好感度だったと言っていいでしょう。

二度の離婚を経験され(←現在もTVドラマでご活躍の、若干頭髪に不安はあるものの依然二枚目な俳優さんと、お騒がせはありつつも人気実力揺るがぬ大物演歌歌手さんです)、独身でご自宅でひっそり亡くなり二週間後に警察通報で発見…という部分に関しては、月河は不思議とさほどかわいそう感は抱きません。

死ぬとき“家族に看取られて安らかに”がそんなに、別格に幸せなことだと思わないからかもしれない。家族とともに暮らすことで被るやりきれない苦痛や不自由や悩みが山ほどあるのに、死ぬ間際だけ“家族とともに”が絶対的幸福であるかのように言われるのは非常に理不尽です。

経済的に窮迫し食い詰めての孤独死ならば、かわいそうというより悲惨ですがそういうわけでもない。二度結婚されてもお子さんもなかったことだし、庶民的な役や情の深い女性の役を演じてもどこか風のように生活臭のないのが持ち味で、そもそも“家庭”“家族”に縁があまりない、執着もしない人でもあったのでしょう。芸能や芸術の才に人並み優れ、成功した人には特によくあることで、子や孫・曾孫何十人もにわいわい囲まれて何の才能もなく世の片隅で凡々庸々と生きて死ぬ人とどっちがどれくらい幸せかなんて、考えるのも愚な話です。

お気の毒だなと思うのは50代前半の、まだまだ色気も女らしさもじゅうぶんに備え、年輪を経た大人の役を、余裕を持って演じることができる、俳優としていまの日本のドラマ・映画界でいちばん必要とされる年代で難病に倒れられたことですね。若い頃美貌やセクシーさを謳われた、特に女の俳優さんが、中高年になられて老け役老けづくりで露出し続けることを好まず、出演を減らしたり休業されたりすることを月河は大いに歓迎していますが、健康が万全でオファーもあるのに“俳優業以外の自分の時間を持ちたい”と自由意志で一線を退いて、退いたなりのプライベートライフを楽しまれていたのではなく、やむなく闘病に明け暮れる事実上の逼塞状態では不本意な晩年(62歳で“晩年”になってしまったことも含めて)だったことでしょう。

出演作で印象深いのは77年の横溝正史映画『獄門島』、あとやはり84年の宇野千代原作、市川崑監督『おはん』でしょうかね。どちらも共演石坂浩二さんなのは偶然でしょうが、後者は吉永小百合さんのタイトルロール・おはんと、石坂さんを奪い合うやり手の芸者おかよ役で、「男のいらないお人は、何処なと去(い)たらええ、うちは男がいるんや、男が欲しいのやという終盤の台詞は、ほぼ原作通りなのですが、演じるのが大原さんでなければまず言えない、脚本にも入れられない台詞だったと思います。

可愛らしさのあるオトナの女性と言っても、『おはん』で38歳、『獄門島』の77年にはまだ31歳だったわけです。2009年時点で38歳の女優さんといえば、それこそ不本意にもいま注目の酒井法子さんをはじめ、藤原紀香さん中島朋子さん檀れいさん木村多江さん和久井映見さん永作博美さん工藤夕貴さん吉本多香美さん牧瀬理穂さん高田万由子さん…などですが、当時の大原さんと引き比べると、大原さんはむしろ老成していた、と言って語弊があれば、女性として女優として成熟度が高かったと言うべきかも。

いま、たとえば藤原紀香さんを……いや待て、無理だな。うーん……そうだ、永作博美さんを、おかよ役に充てての『おはん』も、想定ならできなくはないでしょうが、ずいぶんとトーンの違う作品になるでしょう。当時は映画にせよドラマにせよ、劇中世界そのものがいまよりはるかに成熟した空気感でした。

高齢家族その2は、TVドラマとしてはたぶん最後のご出演であろう、04年暮れの放送『十津川警部シリーズ ~東北新幹線はやて殺人事件~』を、渡瀬恒彦さんとの“元・夫婦”共演というところに女性週刊誌的興味を持って、観たそうです。役柄的にどうこうより、大原さんの映る場面ごとに強烈に紗がかかったりライト飛ばしがきつかったりで、なんだか観てていろんな意味で気の毒になったと言っていましたね。別に面識はないし名誉を守ったりフォローしたりしてあげなければならない立場じゃないけれど、「いろんなことを割り引いてもかわいくて綺麗で、“ザ・女優”な感じは失せていなかった」とも。十津川シリーズは再放送で何本も観ているけれど、これは月河は未見だなあ。今般の訃報で追悼再放送はないかしら。『おはん』ももう一度、DVDでも再見したいですね。

死に際を見届けた人はいなかったわけですが、小康を得て突然に訪れた、苦痛のない最期だったと思いたい。ご冥福をお祈りします。今夜は全員SUNTORYレッドで黙祷。

コメント
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