私が、ロンドンに長期滞在していた頃のことだ。
ご存じのように、ロンドンバスは有名で、
市内を 網の目のように バスコースが めぐっている。
ある日、混んだバスに乗っていた時、近くに東洋人の女性が
乗り込んできた。日本語の観光案内本を持っていたので、
すぐに「日本人だ」というのが、わかった。
不安そうに、何かを探している風情だったので、
「日本の方ですか?」と私が声をかけて、一言二言話し込んだ。
その時だった。
バスが、急カ―ヴをきって、その遠心力で、乗り口付近に
ふらふらと 立っていた彼女が、・・・なんと・・・
バスから 振り落ちてしまったのだ。
旧式バスの乗り口には、サンフランシスコのケーブルカーのように、
混んでいる時は、多くの人が 無理に乗り込んで、群っている。
しかし、バスの乗り方に慣れている「ロンドンっ子」は、
それなりに身体の踏ん張る場所を、コースによって、
コントロールしているのだが、観光客には それが分からず、
少しばかり気を抜いたりすると、バス乗車口辺りから落ちそうになる。
特に、旧式のロンドンバスの乗り口は、広くて、オープンなので、
混雑している際には、あのあたりは気をつけるべきだ。
けれども、実のところは、一番心地よい場所だったりもするし、
好奇心を くすぐられる場所だったりもするのだが・・・。
彼女の身体が 路上に落ちたことで、私の胸はドキドキした。
道の上に放り出されて、倒れこんでいる状態だった。
救急車を誰かが呼んだら、幸いにも、とんでもなく早く到着した。
それまでは、乗っていたバスは止まって、彼女の意識を確認したり
状況を聞いたりしていたのだが・・・
一言二言話していた私は、友人か知人と思われたみたいで、
また同時に、彼女は英語での反応が鈍かったので・・・
私が、ずっと 日本語で、彼女に話しかけて、声かけをしていた。
彼女の意識は、しっかりとあったので、とりあえずは安心していた。
結局、私は、救急隊員か警官かに 背中を押されて、そのまま・・・
救急車に同乗して、病院まで付き添っていくことにした。
レントゲンを撮ったが、何の問題もなく、結局・・・彼女は、
すぐに帰され、不幸中の幸いだった。(その後も問題なし)
私は、最後まで付き添った。
彼女が、ビックリしたのは、病院でお金を請求されなかったこと。
私が、一番ビックリしたのは、救急車の到着する速さ。
あっという間に 到着したので・・・。
その偶発的な事故の場所が、今夜のロンドン・オリンピックの
マラソンコースになっていた。
「あれ~、あそこだ・・・」
急に、フラッシュバックした事故のことを、景色が思い出させてくれた。
まぁ~るくサークル的にバスが回るため、時より危険な場所にも
成り得る 「トラファルガー広場」 である。
思い違いかもしれないが、とにかくそっくりだ。
近くには、高級有名ホテルがあり、多くの人が「彼女の事故」を
心配そうに見ていたのを覚えているが・・・。
興奮状態だった私の記憶は、本当に定かではない。
ロンドンは、バスのニ階で景色を観ているのは快適だと思うが、
混んだバスの乗り口は、とにかく、注意すべきだ。
そんなことを思い出しながら、オリンピック・女子マラソンを
観戦していた。
せっかくの美しい景色のロンドン市内のコースなのに、雨で
選手の皆さんも、観戦する私たちも、微妙な背景映像になった。
雨露が目につく映像は、どうしようもないが・・・
あの雨の状態で、曲がりくねった難しいコースを走るのは、
本当に大変だと思う。 足もとも、平坦ではない。
コースも狭い箇所がいくつもあり、路面に窮して 転倒している。