本日のテーマはマンション運営に関することなので、マンションにお住まいの方でないとわかりにくいし、興味も薄いだろう。しかし、それでも読んでみようかという奇特な方のために、まずマンション運営の概略を【まえがき】に説明する。マンションにお住まいの方は【まえがき】を飛ばしていただきたい。
【まえがき】
マンションの区分(専有する部屋)を購入する人は、管理組合に加入しなくてはならない(管理組合がないケースもある)。マンションを運営する役員は組合員の中から選出されるが、マンション内の共有部分の清掃や設備の管理などの実務を役員が行うのは稀であり、管理会社が代行することが多い。
その管理会社はマンションを分譲する企業すなわち建設会社・不動産会社などの関連企業であることが多く、管理会社の手数料は管理費に加算される。管理規約を作成するのは管理会社であり、管理費の額はマンション分譲の際に管理会社の裁量で決定され、区分所有者が異論を挟む余地はないに等しい。
【管理費】
組合員と管理会社の間に信頼関係があれば、管理費が問題になることはない。しかし、管理会社が過大な利潤を管理費に加算し、それが組合員の知るところになると信頼感は失われる。いい例が、私が住む神奈川県湘南地区にあるマンションだ。
私の区分の専有面積は75平米で、湘南地区におけるこのサイズの平均的管理費は月1万2千円程度であるのに対し、私が支払っている管理費はその2倍の2万4千円。この異常に高い管理費の主な原因は、管理費総額の約6割を占める定額管理費(委託管理料と呼ばれることもある)が高いことである。定額管理費が管理会社の手数料(つまり利益)だけであるなら一目瞭然だが、人件費などの経費も含まれているからわかりにくい(それが管理会社のテクニックでもあるが…)。私はいくつかの他のマンションの収支報告書と比較して分析し、定額管理費が適正であれば、私が支払う管理費は現在よりも月7~8千円程度は減額できることが判明した。
なぜこんな事態が起きたのか。まず、分譲当時に管理会社が設定した管理費が不当に高かったことがある。一方、マンション購入者は区分の本体価格にばかり関心を持ち、金額が2桁違う管理費には無関心である。マンションを何度も買い替える人は少ないから管理費の相場を知らないし、大手企業の関連会社が非道いことをするなど夢にも思わないから、異常に高い管理費に気づかなかったのだろう。しかし、その状態が長年続いたとなると、区分所有者にも責任があると言わざるを得ない。
一般論として、管理費等に不満を持つ管理組合は管理会社と交渉するが、その交渉が決裂した場合はどうなるのか。調べてみると、管理会社を取り換えることはリプレースと呼ばれ、リプレースの受け皿となることで業績を伸ばして企業がある。
添付の「管理会社・受託戸数ランキング」(「マンション管理&修繕、全ガイド」ダイヤモンド社平成25年2月発行)によれば、マンション管理の受託ナンバーワンは日本ハウズイングである。同社は建設会社や不動産会社などに無関係で、独立系と呼ばれている。そしてリプレースの受け皿となることでシェアを伸ばし、ナンバーワンにのし上がった。換言すれば、当マンションのような事態は頻発しているということである。
管理会社のリプレースという荒療治になる前に、交渉によって円満解決したケースも多々あるだろうから、リプレースに至ったものは氷山の一角に違いない。すなわち、マンション分譲会社が勝手に決めた管理費のマヤカシが今になってバレつつあるということなのである。
【大規模修繕】
マンションの建物は年々劣化するから、だいたい10年ごとに外壁の補修、屋上の防水、給排水管の交換などの大規模修繕を実施しなくてはならない。そのために、区分所有者は修繕積立金を積み立て大規模修繕に備える。この大規模修繕はマンションの大きさによって異なるものの、数千万円から時には数億円にのぼる大型工事であり、工事代金の回収は保証されているようなものだから、管理会社またはその親会社は大規模修繕の仕事を是非とも受注したいという事情がある。
以前は管理会社主導で大規模修繕が計画され、管理会社またはその関係会社がスンナリと受注できた。しかし、最近は消費者の目が厳しくなり、おいそれと管理会社に任せることがなくなり、設計事務所を大規模修繕コンサルタントとして雇い、管理組合の利益を守る盾として活用するようになった。
コンサルタントすなわち 設計事務所は、修繕が必要な箇所を調べ、仕事を細分化して手順を組み立て、それぞれの仕事に参加したい企業から見積もりを取って最適な企業を選定し(実際には指名入札制を採用することが多い)、工事が始まれば手抜き作業がないか目を光らせる。管理組合としてはコンサルタント料を2-3百万支払っても、建設会社に暴利を貪られるよりまだマシ、ということなのである。
コンサルタントとなる設計事務所をネットで調べると、大規模修繕を営業分野の一つに掲げる有力事務所は案外少ない。その理由は、コンサル選定の基準が実績主体だから。したがって、コンサル業界は寡占化し、仕事は有力事務所に集中する。そして、有力事務所のHPを調べると、それぞれ驚くほど多数のマンションを実績として掲げていることから、コンサル起用は大規模修繕の主流になっていると考えられる。
【結び】
管理会社のリプレース多発といい、大規模修繕におけるコンサルの起用といい、その底流にある共通項は建設業界に対する不信感である。ビジネスは信頼できる相手と行うことが基本だが、ことマンション運営に関しては、事情が異なるようだ。管理組合(消費者としてもいい)は、建設業界は信頼できないという前提に立ち、その上で解決策を講じているわけだ。
日本のビジネス社会は性善説を基本理念とするが*、相手が建設業界となると性悪説で対応せざるをえないという風潮が生まれたのである。
終
11月11日追記:最近の食材詐称騒ぎによって、信頼できないのは建設業界だけではないことがわかった(笑い)。