本論に入る前に、去る5月11日にアップした「機械式駐車場更新の損益計算」に誤解を招く表現があったことをお詫びする。詳細は本文後編をご覧頂く。
マンションの管理組合から臨時総会の案内状がきた。議題は「駐車場使用料を月額7千円から12,000円に値上げする件」。私はかねてより9千円への値上げを提案していたので値上げそのものには賛成だが、それが12,000円では外部駐車場へ移る利用者が続出すると予想する。そのわけは、隣りにある野外だが舗装された駐車場の料金が11,000円、やや離れたところにある無舗装の駐車場が5千円だから。
添付された資料の趣旨は概略次の通り。
機械式駐車場が設置後23年を経過し、延命のための修繕が必要になった。今後10年間に約1,800万円の資金が必要になる。新料金でも今後の10年に300万円の損失が発生するが、これまでの23年間に300万円強の利益がでているので、通算して考えることでご了承いただきたい。
「過去未来通算」の考え方には疑問があったが、それはともかく過去の利益と今後の金額がほぼ等しいとは数字が符合しすぎて不自然だ。そこで資料を仔細に調べてみると、いくつかの誤りが見つかった。
まず、資料では過去23年間、機械式駐車場(以下「駐車場」)が常に満車(20台)だったことになっているが、記録を見ると実際には18台とか19台だったこともあり、平均して1台の「空き」があった。これだけで過去の駐車場使用料(「使用料」)収入は200万円近く減少する。
次に「空き」などとは桁違いの大きな問題点に気づいた。それは過去の損益計算に「駐車場」の建造コストが入っていないこと。「駐車場」の建造コストはマンション販売価格に含まれているから不明だが、ある刊行物では1台当たり100万円と推定しており、これを当マンションに当てはめると2千万円。一般的ビジネスに例えるなら、2千万円相当の商品を無償で提供してもらい、その商品を売り尽くしたら、手元に300万円残ったということなのである。300万円儲かったのではなく、1,700万円損したのだ。
すなわち「過去に300万円の利益がでた」とは大間違い。今後の損益見積もりの出発点はゼロではなく、マイナス300万円なのである。「過去未来通算ゼロ」はとんでもない話だ。
次に今後の「使用料」収入の見積り。前提が満車ベースになっているが、これまで7千円でも「空き」があったのに、今後は12,000円で「空き」が出ないとはあまりにも楽観的である。
まだある。今後の経費見積もり約3千万円(延命修繕費1,800万円プラス保守点検費1,200万円)に消費税が加算されていない。今後の税率アップを考えて消費税をざっと9.25%とすると、税額は約280万円。今後の損失見積もり300万円はこれで580万円に膨らむ。
誤りが一つだけなら管理会社、大成有楽不動産の担当者N氏のウッカリミスということも考えられるが、これだけゾロゾロと出てくると意図的ミステークとしか考えられない。要するに、大成は「過去と未来の損益を通算すれば約ゼロです」と取り繕い、組合に多額の損失がでるのを承知の上で、修繕ビジネスを受注しようとしているのだ。これは立派なペテンである。大手企業としてあるまじき行為と言わざるをえない。
私は総会の席上でこれらの誤りを指摘し、「これはペテンだ。過去に3百万円の利益があったとは嘘っパチ。過去は忘れて、≪3百万円+消費税数百万円≫の損失を出発点としなくてはならない」と発言した。これに対し大成のN氏は無言だった。
出席者の一人が「駐車場利用者は12,000円に納得しているのですか」と質問したのに対し、議長(理事長)は「問い合わせていないし、本日もだれも出席していないから、納得しているかどうか不明です」という。これは重要なポイントである。総会で議案通り可決され延命修繕の発注が終わったあと、外部に移転する「利用者」が続出したらこのプロジェクトは崩壊する。
私は今後発生する損失への対応策を尋ねたが、執行部はなにも答えられなかった。計画書に誤りがあるなどとは想定外のことだろうから、とっさに答えられないのはやむをえない。理事の一人が「大成の下請けメーカーの見積もりには交渉の余地があります」と発言したが、メーカーがそんな巨額の値下げに応じるとは思えない。しかし、値下げ交渉を不可能と断定するわけにはいかないので、それ以上の追及は控えた。
その後、他の出席者から「12,000円は高すぎる。1万円にしたらどうか」という提案があったが、その提案は却下された。それでは損失がさらに増えるから却下は当然だ。しかし、この質問者は事の重大性に気づいていないらしい。私の説明が不十分だったのか。
その時点で議長(理事長)は採決に入り、議案は原案通り可決された。私も賛成した一人である。損失対策を考えずに議案の採決を取るのは無意味だと思ったが、執行部が赤字覚悟のプロジェクトを強行するとは思えず、計画を練り直すだろうと期待したからである。ただし、「駐車場を利用しない人には迷惑をかけぬようにお願いします」という条件をつけた。ちなみに私は「利用者」ではない(運転免許を返納した)。
では、大成はペテンにかけたあと、損失が明るみにでたらどう対処するのだろうか。
後編に続く