頑固爺の言いたい放題

森羅万象なんでもござれ、面白い話題を拾ってレポートします。

書評 「黄砂の籠城」

2017-05-31 16:36:47 | メモ帳

書店でたまたま見つけた文庫本「黄砂の籠城」(松本圭祐著)の帯封に「日本人こそ最高の勇気と不屈の闘志、たぐい稀なる知性と行動力を示した、素晴らしき英雄たちである」(初代駐日イギリス大使 クロード・マクドナルド)とある。

最近、日本人を礼賛する書物やTV番組が増えているから、この本もその亜流かと思ったが、「初代駐日イギリス大使」とあるから、現代の話ではないことがわかる。裏表紙の宣伝文句を読むと、日清戦争後の義和団事件がテーマらしい。私は、「義和団事件とは、明治時代における清国農民の反乱」程度の知識しかなかったので、お粗末な歴史認識を補う一助になればと思い、読んでみることにした。

それがなんの、予想外に面白い。1900年のこと、北京市内の在外公館が密集している外国人租界が漢人暴力集団と清国軍に包囲され、日本人含む駐在外国人が狭い地域に2ケ月ほど立てこもって、食糧不足に悩みながらなんとか救援部隊が来るまで持ちこたえるというストーリー。その籠城戦を指揮したのは柴五郎中佐で、彼とその部下の日本兵士たちの勇敢な行動が、人質となった数千人の各国外交官とその家族、貿易商社員の命を救った。史実である大筋と著者の想像の境界がわからないのは、筆者の緻密な構成力によるものだろう。

 前出のクロード・マクドナルド氏の声明は次にように続く。

彼らのそうした民族的本質は国際社会の称賛に値するものであり、今後世界において重要な役割を担うと確信している。とりわけ日本の指揮官だった柴五郎陸軍砲兵中佐の冷静沈着にして頭脳明晰なリーダーシップ、彼に率いられた日本の兵士らの忠誠心を勇敢さ、礼儀正しさは特筆に値する。」(以下省略)

柴五郎中佐はこの事件の功労により、欧米各国から勲章を授与された。そして、その後間もなく日英同盟が締結されたが、この事件における日本軍人の活躍が英国に好感を与えたと思われる。義和団事件にこんなに重要な意味があるとは知らなかった。

この小説の筋は単純明快で、終始活劇的要素に満ちているから、映画向きである。映画化されることを期待する。


福島のフラダンスはカレーライスだ!

2017-05-28 13:23:26 | メモ帳

福島県いわき市のSpa Resort Hawaiians に行ってきた。10年ぐらい前に観た映画「フラガール」での蒼井優のソロダンスが印象的だったので、一度実物を見たいと思っていたのがやっと実現した。

日本版フラダンスは、ハワイで観た本物と較べたら迫力では劣るが、優雅度・洗練度・訓練度では本物に勝る。ダンサーは美人揃いだし、スタイルもよし。舞台に大の字に仰向けになるソロダンスのクライマックスは映画で見た場面そのもの。

日本人は本物をコピーして、本物よりもベターに仕立てることが得意だが、フラダンスも同様。インド料理を日本的にアレンジして、和風料理に仕立て上げたカレーライスのようなものだ。

予想以上によかったのは温泉大浴場。まず、和風浴場の「与市」。千平米の露天巨大浴場は客がチラホラしかおらず、ノンビリできるのは有難い(写真)。

子ども連れは皆巨大プールに行くのだろう。さらに、宿泊したモノリスタワー(宿泊施設は3棟ある)の大浴場も広々としており、浴槽に50人ぐらい入っても混雑感はないだろう。湯質もいい。

年間来場数は160万人だというから、これを365で割ると4,384人。混んでいる時は優に5千人を超えるだろう。大繁盛だ。Spa Resort Hawaiiansは安・近・短の極上レジャーだから、さもありなんと納得である。

 


旅行キャンセル保険待望論

2017-05-25 14:17:34 | メモ帳

旅行を予約して前金で全額支払ったあと、病気や交通事故などの事情でキャンセルせざるを得なくなった場合、支払った代金が返金されるかどうか調べてみた。

全日空のツアーの場合、国内なら45日前までの30%から、14日前までの50%、出発時以降の100%など、キャンセルの時期に応じてペナルティーが課せられる。海外旅行の場合も条件が多少異なるが、基本的には同じである。他の航空会社や旅行会社の条件も大同小異だろう。

キャンセルによる損失をだれが負担するのが公平かと言う観点では、この条件は妥当だと思う。しかし、売り手(航空会社、船会社、宿泊施設、旅行会社)または買い手(旅行者)のどちらかが何らかの損失を蒙るのは確かである。

旅行者が出発前に急病や交通事故という不測の事態に見舞われる可能性は十分あり、ペナルティーを支払わざるをえないケースは往々にして発生する。当日自宅を出てから出発地(空港、鉄道駅、港)に行くまでに事故が発生した場合は、出発前に旅行保険に加入しておけば損失は補償される。したがって、旅行保険は出発地に着いてから購入するのではなく、事前に購入しておけばいい。

問題は旅行当日以前のキャンセルである。数日間の国内旅行ならペナルティーの金額は大したことはないが、海外旅行や国内旅行でも飛行機やクルーズ船などを利用する場合は、ペナルティーの金額が大きくなり、旅行者はかなり大きなリスクを負うことになる。今のところ、このリスクを補償する保険は存在しないが、保険会社にとってビジネスになるはずだ。保険需要は十分あると思うし、事務的には既存の旅行保険に追加条項を加えることで解決できると考える。

一方、キャンセル条項付の旅行保険があるなら旅行者はリスクを回避できるが、売り手には損失が発生する可能性がある。例えば、旅行者が出発10日前にキャンセルしたときのペナルティーが50%だとすると、旅行者は損失を保険で補償されるが、売り手には50%のリスクが発生する。その空席を転売できればいいが、長距離の場合だと旅行者は前広に予約するから、10日間では転売できない可能性がある。この売り手のリスクも保険でカバーすればいいわけで、ここにも保険会社のビジネスチャンスがある。

旅行者が旅行をキャンセルしたあと、たまたまその空席を転売できた場合はどうするかなど、細部を詰めることは必要だが、調整できるはずである。また、キャンセル条項があれば、常態化している航空会社等のダブルブッキング(5月11日のダブルブッキング問題参照)も必要なくなるのではないか。

ともあれ、キャンセル条項は保険会社の新しいビジネスチャンスである。保険会社が前向きに検討することを期待する。


ロシアゲートと日本の株価

2017-05-20 13:27:57 | メモ帳

5月18日、トランプのロシア疑惑で円が売られ、日経平均株価が大幅に下がった。翌日の新聞各紙は「日経平均2万円回復は遠のいた」と報じた。

しかし、罫線至上派の見立ては違う。私が注目している「わしの罫線」の橋本明男氏は日経平均株価が261円下げた19日、次のような見解を述べた。

相場とは厄介なものです。下げてくれと思っている時は下げる気配も見せず、もう下げないのかなと思った途端にズドンと下げます。終わってみればやっぱりなと思う。それが相場は難しいと言われる所以でしょう。今日はよく下げてくれました。(中略)

明日ですが、日柄から見てもう一日投げさせられるかも知れません。もしもそういう安い場面が出るなら、それころ天与の買い場と言って良いと私の相場観測は考えます。買うものは鉄鋼、自動車、船、銀行、証券、何でも良し。

そして、5月19日は

まずは強いチャートと言えます。そして今日の大引けでこの日経平均先物の週足は私の相場観測法において買い転換が出現です。もう上がって行くしかないと私は確信しておりますが、来週の日経平均先物の変動レンジをご紹介しておきましょう。

上限 20130
下限 19380

理想的な動きを申し上げるなら来週、月、火の二日間で20060円と一気に来る事ですが、さてどうなりますか。

 要するに橋本氏の意見は、「基調は上げ相場で、今回の下げは短期的調整にすぎない」というわけだ。

一方、私の見方は、「実体経済は世界的に悪くないから、ロシアゲートがどう決着しようが時間の問題で、遠からずいい方向に戻る」である。根拠は違うが結論は橋本氏に同じだし、罫線至上派のご託宣は心強い味方だ。

というわけで、手持ち株を整理し資金を捻出して、いくつかの銘柄を新たに仕込んだ。選んだ銘柄は大東建託、東京海上など比較的利回りがいいもの。

この銘柄入れ替えが吉とでるか凶とでるか、来週が楽しみである。


大学病院にもいる藪医者

2017-05-18 16:06:06 | メモ帳

熱海に眺望絶佳の大学病院がある。正面に大島を、伊豆半島を右手に見る雄大な眺めである。この喫茶室でコーヒーを楽しもうと、前々から先延ばしにしていた水虫の治療をこの病院に頼むことにした。診療は10分で終わり、ペースト状の薬と爪につける液状の薬を調合してもらった。

それから1年、毎日、足の指の間の患部に塗り薬を、親指の爪に液状の薬を丹念につけてきた。しかし、一向に良くならない。水虫の治療には時間がかかるとは聞いていたが、改善する様子がまったくないのは気に食わない。それに喫茶室の眺望にも飽きた。

それだったら交通費がかからない医者でいいだろうと、自宅から徒歩圏内にある医院を訪れた。

「これまで通っていた病院で調合してもらった薬が一向に効かないので、薬を変えたいのです」

「どんな薬を飲んでるんですか」

「えっ、飲む薬はもらっていません。塗り薬と爪に塗る薬だけです」とそれまで使用していた薬の名前を伝え、足指の間の白く変色した患部を見せた。

「あぁ、これですか。これは水虫じゃありません。しかし、皮膚病の一種です。爪に水虫菌がいるかどうか調べてみましょう」

白く変色した患部は、水虫ではなかった! 爪を削って、それを顕微鏡で調べた結果、爪には水虫菌がいることがわかった。

そして指定された薬は、ペースト状の塗り薬と液状の爪に塗る薬。

「さっきのお話では飲む薬も必要だということでしたが…」

「とりあえずは、この2種類で様子を見てみましょう」

つまり、爪の水虫は大したことがないということだろう。

薬局でもらった塗り薬の説明書を読むと「ニキビの治療に用います」とある。薬剤師は「ウッソー、年寄りがニキビを治療している!」と思ったのではないか(笑い)。

それから1週間で、変色していた患部はすっかり良くなった。短期間で治癒したのは有難いが、これまでの大学病院の治療は何だったのか。

私は時間とカネを浪費したが、国の医療保険勘定はもっと損した。大学病院ともあろうものが、ほかの皮膚病を水虫と誤診するとはなんたることか! 患者が水虫だといったから、水虫と判断したのか。

大病院にも藪医者はいる、という情けない話である。諸兄姉よ、ご用心あれ。

 

 

 


航空機のオーバーブッキングはなぜ起きる?

2017-05-11 15:24:24 | メモ帳

去る4月中旬、米国のユナイテッド航空 (UA)ですでに着席していた乗客を引きずり降ろすという事件がおき、その映像が全世界に流れて、UAは非難の的となった。そして、その原因はオーバーブッキング(過剰予約)だと報道された。

過剰予約がなぜ起きるのかというと、乗客のフライト・キャンセルは避け難いので、損失が発生しないように、どの航空会社でも一定数だけ余分に予約を取るからである。事件直後の日本経済新聞は次のように報じている。

日本の主な航空会社ではオーバーブッキング対策として「フレックストラベラー制度」を導入している。日本航空と全日本空輸では過剰予約による座席不足が国内線で発生した場合、予約便への搭乗を取りやめる顧客に「協力金」を支払う。当日便の振り替えなら1万円、翌日以降なら2万円とする。翌日以降の場合は協力金に加えて宿泊費なども航空会社が負担する

だが、UAの事件は過剰予約だけが原因だとすると、ツジツマが合わぬことがある。機内は自由席ではなく指定席であるから、UAはその座席に2人アサインしたことになるが、それはありえない。なぜなら、例えば25Aという座席を割り振られる乗客はそのフライトでは一人しかいないからだ。百歩譲って、単純なミスで同じ座席を割り振られた乗客がもう一人いたとすると、なぜ先に座っていた乗客が降ろされたのか。また、その座席を割り振られた乗客が一人しかいなかったのであれば、すべての乗客は降ろされた乗客と同じ立場になり、その乗客を降ろしたのはなんらかの別の理由があったことになる。

私は以前ロサンゼルス空港のボーディングカウンターで航空会社の担当者が、すでにボーディング手続きを済ませた乗客に向かって「どなたか明日のフライトに代わって頂ける方はいませんか。明日のフライトのチケットに加えて、当社が無料で本日のホテルを提供し、さらに$500の現金をお渡しします」と叫んでいたのを目撃したことがある。

この事例でもわかるように、過剰予約はボーディングの際に判明する。UAのケースでは、過剰予約に加えてなんらかのミスがあったわけで、「乗客の引きずりおろし」はまったく言語道断な対応だったのである。それを単に「この事件は、慣行化している過剰予約の制度に原因がある」と報じたのはメディアの誤報であるまいか。

さらに、「過剰予約はやむをえない」とする考え方にも疑問がある。いい例が新幹線の指定席券だ。乗客は乗車する前に指定席のチケットを購入し、その席がダブって販売されることはない。もしその乗客が定められた列車をミスしたら、その客の損失である。

一方、航空会社は座席どころかフライトさえも決まっていないオープンチケットを発行する。ここに過剰予約発生の原因があり、改善の余地がある。もちろん、航空機の方が鉄道よりも悪天候による予定便のキャンセルまたは遅延の頻度は多いことは事実だ。しかし、だからといって旧態依然たるオーバーブッキング制度を続けるのはいかがなものか。航空会社の怠慢ではないのか。

ところが、フライトが決まっている航空券が発行されるケースもある。この場合、なんらかの理由により旅行を延期または中止せざるを得ない事情が発生したらどうなるか。損失が発生するリスクは航空会社ではなくチケット所有者が負うことになる。

これについては次回に述べる。


豊洲の安全性は問題ないはずだ

2017-05-07 14:04:13 | メモ帳

豊洲新市場の土壌汚染に関する数カ月前の調査で判明した数値が、以前に発表された数値よりも格段にひどいことが判明した。しかし、汚染された土壌はコンクリートで遮断されているし、魚市場は地下水を使用せず、水道水を使用するのだから、地下水が汚染されていても新魚市場の日常業務には無関係のはずだ。

一方、昨年(2016年)秋、豊洲新市場に存在するはずがない地下空間が発見され、マスコミがその怪しさを書きたてたため、なんだか気味が悪い建造物であるかのような認識になっているが、そもそも地下空間も盛り土も新市場の安全性には関係。むしろ地下空間は汚染水を遮断するのに寄与するのではないか。

地下空間の存在は、都庁内のコミュニケーションが悪いことを露呈しただけのことで、豊洲新市場の安全性とは無関係である。

しかも、小池知事は「築地市場はたとえ土壌汚染があるとしても、コンクリートでカバーされているから、安全性には問題ない」と述べているのだから、同じ論法が豊洲新市場にも適用されるべきである。

豊洲新市場の安全性に関する議論は、枝葉末節の問題に関心が向いて、本質を見失っている。結論を長引かせるほど、使用していない豊洲の維持費が嵩むだけである。なぜ小池知事は豊洲の安全宣言を渋るのか。

私は基本的には小池知事の支持者である。それだけに、この問題に対する小池知事の対応には残念に思う。


年金生活者諸君! 受給額は多すぎますか?

2017-05-02 15:17:02 | メモ帳

「『老後不安不況』を吹き飛ばせ!」(大前研一著 PHP新書)によれば、「バブル以降のいわゆる《失われた25年》の期間に個人金融資産は1000兆円から1700兆円に増えた。この巨額の金融資産の保有者の大半は高齢者で、支給される年金の3割を貯蓄し、一人平均3500万円ものお金を残して死んでいく」。

大前氏は「日本の景気低迷の主因はこの1700兆円にもなる金融資産が固定化して、しかもそれが増えていること。高齢者がもっと人生を楽しむようにライフスタイルを変えれば、この金融資産が流動化し、景気低迷から脱却できる」と主張する。

では高齢者はなぜ貯蓄を増やすのか。大前氏の主張を要約すると次のようになる。

老後に、もし大病にかかったらどうするか、もし予想以上に長生きしたらどうするか、という漠然とした不安があるから、高齢者が貯蓄するのだ。しかし、年金があれば一応生活できるし、大病にかかっても医療保険制度で守られているのだから、あまり心配せずにもっと人生を楽しむことを心掛けてはどうか

そもそも日本の高齢者は勤倹貯蓄を善とする価値観で生きてきたから、欧米社会に較べてきわめて低欲望社会になった。だから、欧米型の経済理論は日本では通用しないのだ

日本には日本独特の制度が必要であり、その具体策として、所得税・住民税・相続税・法人税・消費税すべて廃止し、その代わりに資産税と付加価値税を新設すべきである

私は大前氏の著作はかなり読んだし、主張には共感するところが多い。大前ファンと言ってもいい。しかし、この「『老後不安不況』を吹き飛ばせ!」(以下本書)には納得しかねる点がかなりある。

まず、「巨額の個人金融資産が景気低迷の元凶である」に疑問がある。個人金融資産は死蔵されるのではなく、金融機関を通じて市場に放出され、経済の血液として機能している。特に、銀行が国債を買う資金は国民の預金であり、銀行預金があるからこそ国家財政が保たれている。だが、こんなことは大前氏は百も承知だろうし、これを議論しては話が先へ進まないので不本意だが控える。

次に「金融資産が25年に1000兆円から1700兆円に増えたのは、高齢者が年金を使い切れずに貯蓄したからだ」には納得しかねる。

標準的年金生活者は日常の支出をなんとか年金受給額内に収まるように、努力していると思う(私がそうだし、友人達も同様)。金融資産が総額で増えた理由は、富が特定の人々に偏在しているからである。つまり、年金が余るのは株式配当や不動産賃貸など別の収入が潤沢にある人々―3泊4日の列車の旅に95万円も投じるとか(笑い)―の話であって、標準的年金生活者にとっては年金受給額が多すぎるということはないはずだ。

問題は税制改革の内容である。大前氏は諸税を撤廃して、資産税と付加価値税の二つに集約すべしと説く。

大前案の資産税とは、固定資産と金融資産すべてに1%課税するというもので、現在ざっと法人・個人合わせて5000兆円の資産があるから、その1%として50兆円の税収となる。そして資産税の長所は資産を多く保有している人ほど税額が多くなること。

次に付加価値税とは、生産から流通まであらゆる段階で、売価から仕入れコストを差し引いた金額つまり付加価値に対して課税する制度であり、大前氏はその税率を10%にすることを提案している。今、日本のGDPは約500兆円だから、その10%ならこの税収は50兆円になる。

資産税と付加価値税の両方合わせて税収は100兆円となり、現在の国家予算をまかなうに足りる。

しかし、この大前案にはかなり無理がある。

まず、資産税について。私自身を含め、資産が少ない人々は大前案に賛同するとしても、資産が多い人々は保有する資産を貴金属やタンス預金に変えるとか、ドルに換えて海外の金融資産を買うなどの対抗策を講じるだろう。円の急落など、経済の大混乱を招くこと必至である。

付加価値税は実現性に問題がある。売価の捕捉はともかく、何をもって仕入れコストとするかの基準の設定が不可能。例えば、仕入れコストがない漁業者はどう扱うのか。粗利が薄い卸業者と原価が非常に安いブランド装飾品のメーカーを同列に扱っていいのか。部品が何万点にもおよぶ自動車のコストを算定するには膨大な書類が必要になり、手間がかかりすぎる。大前氏も付加価値税に関しては1ページしか費やしておらず、熟考した結果とは思えない。

大前氏は、金融資産流動化策として税制改革以外にもいくつかの提案を示している。

●なんでもかんでも医師に診てもらうことをやめて、軽い病気なら市販の薬で間に合わせるような制度にする。つまり、病気の再定義を行う。

●介護人材が不足しているが、それには移民を活用すべし。

●救急車は有料にすべし。(コメント:賛成だが、本書の趣旨とは無関係ではないのか)

●土地の容積率を緩和すべし。

さて、大前氏は金融資産を流動化させる方策として、個人がやるべきこともいくつか挙げている。

●定期収入を生み出すことを考える。例えば、住居の一部を外国人旅行者のための民泊として提供する。(コメント:部屋を貸すほど大きな住居に住んでいる人はごく限られ、その中で民泊に賛同する人はさらに限られる)

●ベンチャー企業に投資する。(コメント:ベンチャー企業の業容次第によっては、株式投資の方がリスクが少ない)

●趣味の幅を広げて充実した人生をおくる。(コメント:ごもっとも。しかし、本書の趣旨とは無関係)

本書にはいろいろ難点はあるが、日本が低欲望社会だという大前氏の指摘はその通りだと思う。例えば、標準的日本人の国内旅行は1泊2日かせいぜい2泊3日だが、アメリカではバケーションは1週間が普通である。もっと人生を楽しむようなライフスタイルを目指そうという大前氏の提言には賛同である。