マンション区分所有者(=組合員)の意思決定機関である管理組合総会。組合員は総会に出席して、提出されている議案に賛成か不賛成かの意思を表明する権利を有する。その議案は組合理事長の名義になっているが、事実上管理会社の意向である。それでも管理会社と組合の利害が一致していれば問題ないが、時には利害が相反することもある。この利害相反する事案が2年前に私が住むマンションで発生した。
(1)「起」
2015年12月に開催された臨時総会の議題は、機械式駐車場(以下「駐車場」)の使用料を月7千円から12,000円に値上げする件。その目的は「駐車場」が老朽化したので、延命のための修繕(部品交換)が必要となり、その資金を捻出すること。
7千円から12,000円への値上げとはかなり大胆である。なぜ管理会社の大成有楽不動産(以下「大成」)はこのような値上げを提案したのか。多分、同社はコスト(修繕の減価償却費とメンテナンス費等)を計算し、かつ同社が管理する他のマンションの機械式駐車場の使用料を調べた結果、12,000円が妥当と判断したのだろう。
この議案に関し、私は二つの問題点を指摘した。一つは消費税が計算されていないこと。もう一つは、大幅値上げでも満車が続くという想定になっていること。たまたま、その時点では満車になっていたが、過去に月7,000円でもしばしば「空き」が発生していたので、値上げによる「駐車場」利用者の目減りを計画に織り込むべきだと主張した。なお、隣の大型月極め駐車場の標準料金は月11,000円だから、提案よりも千円安い(ただし、一括長期契約すれば10,000円以下になる可能性は十分ある)。
その結果、上記問題点を改善するという条件つきで、値上げは可決された。この時点で、私は「駐車場」を廃止して隣りの月極め駐車場を利用する方がはるかに得だと考えていたが、月極め駐車場の残りスペースが12~13台しかなかったこと、そして「大成」がミステークを修正すると5百万円程度の値引きが必要だが、それは不可能と判断したしたこと、により「駐車場」廃止案は口に出さなかった。
(2)「承」
それから半年後の2016年6月に開催された通常総会に、修正案が提出された。その修正案では、消費税欠落のミステークは修正されていた。但し、値引きではなく、いくつかの修繕項目のうち一つを実施しないことで、収支のつじつまを合わせたのである。一方、満車を前提にしている点は修正されなかった。その時点でも「駐車場」が満車だったことが影響したと推測する。提案していた修繕をいくつか実施しないことで採算のつじつまを合わせるという奇策には恐れいった。
そこで、私は計画の脆弱性を批判する代わりに、「駐車場」廃止し、隣の月極め駐車場を利用することを提案した(月極め駐車場のスペースは不足だが、その前にあるミカン畑を駐車場にすればなんとかなる。しかし、この時点では月極め駐車場のスペース不足については黙っていた*)。私の提案を採用すれば、組合は1,800万円という巨額の支出を節約することができる。さらに、隣の月極め駐車場の料金は表向き11,000円だが、組合が一括長期契約すれば、1万円もしくはそれ以下になることが期待できる。しかも、「駐車場」のメンテナンス費もなくなる。
*月極め駐車場はずいぶん「空き」が多いように見えるが、契約車が昼と夜で入れ替わるので、一見「空き」が多いようように見えるのである。昼間は整骨院とそば屋の契約車が駐車し、夜は通勤用が駐車する。だから、総会出席者は隣の駐車場のスペースが足りないことには気づいていなかった、
組合としては多大のメリットがある提案のはずだが、「大成」としては修繕ビジネスを失うことであり、受け入れたくない。理事長としては、理事会で可決されたものが総会で否決されることはメンツにかかわるし、議案が理事長名義になっていることもある。それに、「大成」にとっても理事長にとっても、「駐車場」廃止案は寝耳に水の突然の話であり、とっさに「はい、そうですね」とは言えない。
結局、議案はそのまま可決された。出席者の中には、私の提案の方が議案よりはるかに得であることを理解した人もかなりいたはずだが、意見を述べる人はいなかった。理事会の決定事項を否認する方に組みすることは、ムラ社会の掟にそむくことなのだ。多数決制度の矛盾である。
反省:私は、2015年12月の時点で、「駐車場」廃止案を提案しておくべきだった。まさか「大成」が修繕の一部を実施しないとか、値上げによる目減りを無視することで、強引に修繕案を押してくるとは思わなかったのである。
(3)「転」
それから2年経った今年の6月、通常総会の資料が送られてきた。その資料によれば、「駐車場」に「空き」が3台発生している。これは計画対比年間432,000円のマイナスであることを意味する(12,000円×3×12)。そこで、私は現状が続く前提で「駐車場」に関する長期収支予測表を作成し、総会の席上全員に配布した。その収支予測によれば、2030年に「駐車場」収支は970万円のマイナスになる。
私はこの予測を示して、抜本的対策が必要だと述べ、その対策として「駐車場」廃止を改めて提案したが、私の発言に対して反論も質問も一切なかった。
(4)「結」
実は、隣の駐車場の残りスペースは、現時点で残り十台以下になっている。もちろん、当マンションの「駐車場」から流れた分だけ、残りのスペースが減ったこともある。
そこで、総会終了後ただちに、隣の駐車場の向かい(当マンションから見て、斜め向かい)にあるミカン畑の地権者に当マンションの専用駐車場を作ってもらう申し出をするよう理事長に文書で提言した。面倒な作業になるが、実現の可能性はかなり高い。
はたして、理事長はどう動くか、まだメンツにこだわるだろうか。また、「大成」はどう態勢を立て直して、巻き返すか(笑い)。それから2ヶ月経つが、理事長から何の連絡もない。
終
必要