WILL誌8月号に「医療の“ひっ迫”は大嘘だ」(青山正幸、衆議院議員)と題した興味深い記事が掲載されている。
筆者の青山雅幸氏は東北大学法学部卒業の弁護士で、全国B型肝炎訴訟静岡県弁護団団長、カネボウ美白化粧品被害静岡県弁護団団長、浜岡原発廃炉訴訟弁護団事務局長などを務めた。2017年、立憲民主党から衆議院議員に当選、現在は日本維新の会に所属する。
青山氏の主張の概略は次の通り。(青字)
日本は人口当たり病床数が世界一、人口心肺装置の数も世界のトップクラスである。そんな日本で“病床のひっ迫”が叫ばれ、度重なる緊急事態宣言が派出された最大の原因は、「行政の怠慢」と「医療の非協力」*である。
緊急事態宣言が発出された理由は、東京都や大阪府などの特定の都道府県の病床がひっ迫していたからである。それならば病床が空いている近隣の病院に患者を搬送すればいいのだが、県境を越えた広域輸送という発想はなかった。
広域搬送には自衛隊に協力を要請すればいい。自衛隊にはドクターヘリの2~8倍の人数を輸送できる中・大型ヘリと、人口呼吸器が搭載可能なヘリが250機もある。
私はかねてより厚生労働委員会で菅総理や田村厚労相に広域搬送の実施を提言してきたが、なかなか実施されず、6月になってその方向でやっと動き出した。
この青山氏の主張は正しいのか。「新型コロナの入院者と新型コロナ対応のベッド数」というデータによって検証してみると、確かに入院者とベッド数の比率は、県別に見ればかなりバラつきがあることがわかる。
高い方では、沖縄71%(ベッド数715に対して入院者511人)、北海道36%、低い方では鳥取1%、島根1%、和歌山2%など。感染者が多い首都圏では、東京21%、千葉25%、神奈川25%など。
現在でこそ感染者は減ったが、青山氏が広域搬送を提言していた4月~5月は、東京都の病床使用率は60%を超えていた。都道府県別のバラつき度は一時期、上記のデータよりも格段に高かったことは間違いない。
幸いにも“病床ひっ迫”問題は大ごとにならずに済んだが、大所高所から見れば、“ひっ迫”は最初から起きるはずがなかった、ということになる。
では、海外諸国ではどうなのか。これについて、青山氏は次のように指摘している。
●フランスでは昨年から(つまりコロナ禍が始まった直後から)、高速鉄道を利用して広域搬送を行っている。
●ドイツではICUの設備がある緊急輸送機をフランスやイタリーに派遣し、患者を受け入れている。
こうした中、日本では感染拡大に慌てふためいて、柔軟な発想をすることはできなかった。「行政の怠慢」である。自衛隊にワクチン接種で助力を要請したのが、関の山だった。
その「行政の怠慢」がWILLで批判される程度で済んだのはワクチンのお蔭であり、お役人たちにとってはラッキーなことでる。
(注)本論では、「医療の非協力」については省略し、「行政の怠慢」に絞った。