「駐車場」の採算性
機械式駐車場(「駐車場」)のコストはマンション分譲価格に組み込まれており、その耐用期間が終わるまでを第一ステージとすれば、それ以降(第二ステージ)の採算性は第一ステージの収支には無関係なので、この小論では第二ステージの採算性に絞って分析する。なお、収入の「駐車場」使用料は通常月額を基準とするので、支出も月割で算出する。
支出
第二ステージの「駐車場」の運営コストは、(1)「修繕費」、(2)保守費、(3)電気料、(4)資金調達コスト、から成る。
(1)月割「修繕費」
「修繕費」総額を耐用年数(後述)で割り、それを12で割れば月割「修繕費」になるので、まず総額を調べる。当マンションにおける「修繕費」の支出は20年目から発生しておりこれまでに支出された「修繕費」(税込)に今後10年間に支出が必要となる費用(税率を9%とする)を加えた1パレット当たりの「修繕費」総額は1,281千円である(計算基礎は省略)㊟。
㊟この小論の(1)で述べた大成の「修繕費」減額は信頼性に欠けるので、最初に提示された金額をベースに計算した。
なお、延命修繕(部品の順次取り換え)ではなく、一挙に総入れ替えした場合のコストをネットで調べたが、1パレット当たり100-200万円という大雑把な金額しかでてこないので、やむなく上記1,281千円を妥当と判断して、論を進める。
さて、機械式駐車場の法定耐用年数は15年で、延命修繕した場合でも同じルールが適用される。しかし、法定耐用年数は国税庁が定めた税務上の問題であり、マンションの場合はそれにこだわらず現実的な耐用年数を適用すべきである。当マンションでは20年目から「修繕費」の支出が始まっているので、今後の耐用年数も過去と同様20年とするのが適切だと判断する。すなわち、年割「修繕費」を総額の20分の1として、月割はその12分の1。
具体的には、月割「修繕費」は 1,281,000÷20÷12= 5,338円。
(2)保守費
当マンションでは、20パレットで月額税前85,000円だから、1パレット当たり税込月額は
(85,000×1.09) ÷20= 4,633円。
一方、保守費の世間相場にはかなりバラツキがある。最安値は、「マンション管理&修繕」(ダイヤモンド社)が提示する20パレットで年間198,000円(年4回点検)で、これは1パレット当たり月額換算825円。
ネットで調べると、管理見積.com は、年4回で、1回の料金は、基本料金 55,000円プラス(3,000円×パレット数)としており、20パレットを適用すると、1パレット当たり月額1,916円、税込(9%)2,088円になる。
また、マンション管理組合支援センターは平均2,500円としている。ここでは、このデータを採用するとして、税率を9%とすれば2,725円。
当マンションの保守費は、世間相場に比べて突出していることは明らかである。
(3)電気料
原案に示された年額180,000円をそのまま適用すると、1パレット当たり月額は
180,000÷20÷12 = 750円
(4)資金調達コスト
「修繕費」には修繕積立金を使用するが、修繕積立金には「駐車場」を利用しない組合員も出資しているので、「駐車場」運営を一つの営利事業と考えれば、投資額に対して最低でも2%程度の年間利回りが必要であろう。低金利が定着した現今、2%の利回りは高いという議論もあろうが、当マンションの場合「使用料」が隣りの駐車場より1,000円高いという事情があり、今後「空き」が増加する可能性がある。そのリスクも勘案すれば、資金調達コストを2%とすることは妥当と判断する。
月額換算 1,281,000×0.02÷12= 2,135円
収入
「駐車場」には平均して「空き」が5%(当マンションでは1台)発生すると想定し、「駐車場」使用料(月間)は満車ベースの95%とする。なお、利用率95%は当マンションの特殊事情であり、一般的には100%(「空き」なし)としてもいいだろう。
以上を綜合して、「駐車場」の1台当たりの月間損益(単位:円)は次のようになる。
支出
当マンション 標準
月割修繕費 5,338 (41.52%) 5,338 (48.76%)
保守料 4,633 (36.04%) 2,725 (24.89%)
電気料 750 (5.83%) 750 (6.85%)
資金調達コスト 2,135 (16.61%) 2,135 (19.50%)
合計 12,856 (100%) 10,948 (100%)
収入
「駐車場」使用料(95%) 11,400 11,400
収入―支出 ▲1,456 452
この分析は、延命修繕はそのコストがパレット1台128万円程度ならば、保守料が標準的レベルである限り、使用料12,000円で採算が取れることを示している。ところが、大成は収支計画の策定において、対象期間を「駐車場」の耐用年数ではなく、当期から10年後までの期間に設定したため採算が厳しくなり、“修正”等の小細工を弄しても、収支が見合う形に組み立てることができなくなった、と思われる。そして、最終的に総括修繕計画という“目くらまし”でごまかし、組合の同意を取り付けたということになる。
企業の倫理性
昨年12月の総会で、私は「毎月の保守点検は過剰サービスだ。世の中、年4回か6回が一般的である」と主張したが、前理事長が「それでは安全性に懸念がある」と大成の立場を擁護した。大成の担当者N氏はこの議論を記憶しているはずだが、修正案ではこの問題に触れていない。
この案件のポイントは、大成は、機械式駐車場は廃止する方が組合にとって有利であることを知りつつ、組合員の信頼をいいことに延命修繕を受注し、さらに過剰サービス(保守回数)を組合に押し付けていること。
大成有楽不動産には企業の倫理性が全く欠如していると断定せざるを得ないのである。
終
付記:この項の次に「機械式駐車場の会計処理」を掲載しているので、業界関係者および機械式駐車場があるマンションにお住まいの方はご一読願いたし。